しんどいとき助けになる音楽(24)〜 徳永英明
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徳永英明 / VOCALIST BEST
いまの日本で間違いなく No.1アレンジャーだと信じている坂本昌之は、徳永英明の『VOCALIST』シリーズ全六作(2005〜15)の全曲を手がけたことで評価を確立しました。売れたんですよねえ。好みはあるにせよ音楽的にも立派な成果で。
もう坂本のアレンジ・ワークには心底ベタベタに惚れていて、所属事務所のフェイス・ミュージックにメール送ってしまいましたからね。ファン・レターとかではなく、どんな歌手のでも細大漏らさず「ぜんぶ」聴きたいので仕事の一覧みたいなのを教えてほしいと。
返信が来て「一覧のようなものは作成していない」とのこと。担当者はだいぶ恐縮していましたが、じゃあぼくがやればいいのか。しかしどうやって調べたらいいんだろう。それでもファン・レターだったら事務所のかたがご本人に転送してくださるとのことなので、そのうち書くことにしました。
そんなわけできょうも徳永英明を聴いていますが、坂本アレンジの妙味が存分に味わえると思います。どこまでも静かでおだやか、リズム・セクションと弦楽を中心にしたやわらかいサウンドに乗せて、徳永は歌詞の意味をていねいにじっくりつたえようとしっかり発音しています。
『VOCALIST』シリーズはすべてカヴァー曲なんですが、原曲を知っていればいるほど予想もできなかったであろう変貌ぶりにビックリします。たとえばTRF(小室哲哉)の「寒い夜だから・・・」なんて、エレクトロニクスをフルに駆使したものだったのが、ここでは完全アクースティックなオーガニック・サウンド。
この手のものがこのシリーズにはいっぱいあって、坂本アレンジのマジックを思い知ります。そして聴き終えたら「あぁ、この曲はこういうふうなものとして誕生したんだなあ、あるべき姿にいまはじめて戻った」っていうような気持ちになるんですよね。
『VOCALIST』シリーズでは徳永が特に気持ちを込めて、歌詞が鮮明に聴き手に伝わるようにとゆっくり発音されていねいに歌唱されていますから、坂本のアレンジ手腕もいっそう輝いて聴こえるように思えますね。
坂本昌之アレンジの特徴:
・ひたすらおだやか
・淡く薄味
・シルクのような肌心地
・細かな部分まで神経の行きとどいたデリカシー
・必然最小数の音だけ、ムダのない痩身サウンド
・アクースティック生演奏のオーガニック・サウンド
・自身の弾くピアノが軸
・リズム・セクション中心で、管弦は控えめ
・リズム楽器(ドラムス、ベース、ギター、鍵盤)をセットでかたまりとして動かす
・ブレイクやストップ・タイムなどの使いかたが、控えめだけど効果的
・(特にギターが)ショート・リフを反復する
・ラテン・シンコペイションを軽く効かせ
・フルート・アンサンブルの多用
・その他木管を使い、ブラスはほぼなし
・エレベとコントラバスを適宜使い分け
・原田知世をプロデュースするときの伊藤ゴローとの類似性
(written 2023.9.11)