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しんどいときの音楽〔82)〜 カーメン・マクレエ
(3 min read)
Carmen McRae / The Great American Songbook
ジャズ歌手、カーメン・マクレエのライヴ・アルバム『The Great American Songbook』(1972)は、タイトルどおり有名スタンダードが中心。なかにはあまり知られていない良曲やオリジナルもありはしますが、あくまでスタンダードを歌っているのが大きな特徴です。
さらにいえば、リオン・ラッセル、バート・バカラック、アリーサ・フランクリン(のレパートリー)など通常ジャズ歌手はあまり歌わないもので、しかもライヴをやった71年時点ではまだ「グレイト・アメリカン・ソングブック」のなかに入っていなかったであろうものもとりあげています。
いまではそれらもすっかりスタンダードの仲間入りをしているので、ライヴを企画したときのカーメンや製作陣の慧眼ぶりがうかがえますね。そうしたロックやポップスもここでの解釈はもちろんジャズ的な演唱になっていて、保守的なジャズ・ファンでも安心して聴けます。
伴奏はギター+ピアノ・トリオ。このバンドが実にいい演奏ぶりを聴かせているのもポイント。もちろんあくまで歌の伴奏に徹していて、黒子のように決して目立たず、しかし必要な音はしっかり出してカーメンを支えるというひじょうに重要な要素になっています。
特にピアノのジミー・ロウルズ。このひとの達者ぶりにはため息が出るばかり。ピアノ一台だけの伴奏でカーメンが実にしっとりと歌う落ち着いたバラード系のものがアルバムには多いんですが、ロウルズの歌伴ぶりはまるでお手本。ヴォーカルへの押し引きがあまりにも絶妙で、呼吸感がほんとうにすばらしいです。
アルバムで個人的に特に大好きなのはむかしの二枚組レコード二枚目B面。「Close to You」や「Mr. Ugly」「It’s Like Reaching for the Moon」など好きな曲が多いし、カーメンの歌も粘っこくありながら実に美しいと思います。声のハリ、ツヤなどもふくめどこをとっても文句のつけようがありません。レコードやCDでは聴けた曲前の楽しいおしゃべりがサブスクでカットされているのは残念ですけれど。
(written 2024.1.30)