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夢を見る 〜 キャット・エドモンスン

(4 min read)

Kat Edmonson / Dreamers Do

萩原健太さんのブログで教えていただきました。

アメリカ人歌手、キャット・エドモンスン(Kat Edmonson)。知らないひとだったんですけど、2020年作『ドリーマーズ・ドゥー』があまりにもすばらしいのでビックリしちゃいました。アルバム題どおり「夢を見る」ということをテーマにしたアルバムで、それに沿って選曲され、特にディズニーのレパートリーが多く収録されていますが、なにより驚くのは伴奏の楽器チョイスとアレンジですね。ドリームとのことばどおり、まさに音楽で世界旅行の夢を見せてくれているような作品なんですね。

トップとクロージングに置かれているのは『シンデレラ』からの「ア・ドリーム・イズ・ア・ウィッシュ・ユア・ハート・メイクス」(夢はひそかに)。どっちもストレートなメインストリーム・ジャズのスタイルでのアレンジで、それも大好き。このアルバムのテーマを冒頭と締めくくりでしっかり示してくれていますよね。サウンドも、キュートっていうかアイドルっぽいかわいらしい声のキャット・エドモンスンのヴォーカルも、いい。

アルバムにはこういった路線の曲が多いというのが事実です。ですけれどもたとえば2曲目「ゴー・トゥ・スリープ」(『おもちゃの王国』)をちょっと聴いてみてください。これは中国音楽ふうにアレンジされているでしょう。おもしろいじゃないですか。楽器もこれ、琵琶かな、ちょっとウードっぽいような音色で、琵琶とウードは同源なんですよね。キャットが歌う主旋律も中国ふうにアダプトされてあるし、伴奏の楽器やアレンジなど、オリエンタルですよね。こんな感じに仕上がるなんて。

アルバムで最もグッと来たのは5曲目の「ウェン・ユー・ウィッシュ・アポン・ア・スター」(星に願いを、『ピノキオ』)です。以前から書いていますように「シボネイ」とならぶぼくの最愛の曲なんですけど、このキャットの「星に願いを」は特筆すべきできばえです。プレリュードの役目を果たしている4曲目「ナイト・ウォーク」から同趣向ですが、西アフリカの弦楽器であるコラが大胆活用されているんですね。その背後に浮遊感満点の(たぶん)シンセサイザー?(あるいは)パーカッション?

コラのさわやかで幽玄なサウンドに導かれ、5曲目に入ってその演奏がリズムに乗りはじめると俄然ムード満点。特に西アフリカを想起させるエキゾティック・テイストはありませんし、途中からリズムを表現するタブラにもインド風味はなし。もっと普遍的でひろく世界に訴えかけられるドリーミング・サウンドで、それに乗ってキャットがあまり聴いたことのない旋律と歌詞を歌います。そう、この「星に願いを」はあらゆる面でかなり改変されています。新たな歌詞とメロディが付与され、全体を短調にリアレンジし、それでも「星に願いを」だということだけはギリギリわかる線を行っているんです。

いやあ、こんなすごい「星に願いを」は聴いたことなかったですよ。最愛曲ですけど、このキャット・エドモンスン・ヴァージョンがたったいま No. 1になりました。音楽的に多国籍というか無国籍で、多彩多様な要素をさまざまに溶け込ませ、しかしどこかへ飛んで行ったりはしないアイデンティティ、一体感はしっかり保持しつつ、dreaming というテーマをこれ以上なく効果的に表現したこのキャットの「星に願いを」。最高の音楽果実じゃないですか。

7曲目「チム・チム・チュル・イー」(『メリー・ポピンズ』)ではスティール・パンが大活躍。しかしこれもことさらにカリブふうでもなく、もっとひろい意味でのドリーミング・サウンドに仕上がっているし、14曲目「オール・アイ・ドゥー・イズ・ドリーム・オヴ・ユー」はプレリュード的な13曲目からずっとパーカッション群大活躍の濃厚で快活なサンバで、これも楽しいです。現代先端ジャズふうな15、17曲目も聴きごたえありますね。

現時点で、チェリナ(エチオピア)とならび、2020年のベスト・ワン作品です。

(written 2020.3.4)

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