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低温やけどのようにじわじわ芯部まで 〜 レ・フィーユ・ド・イリガダッド

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Les Filles de Illighadad / At Pioneer Works

いはゆる砂漠のブルーズは男性バンドばかりでしたが、サヘル・サウンズがてがけるニジェールのレ・フィーユ・ド・イリガダッドは “フィーユ” というくらいで女性バンド。2016年結成で、女性トゥアレグ・ギター・バンドは個人的に初耳です。

そのレ・フィーユ・ド・イリガダッドが2019年の秋に米ニュー・ヨークのブルックリンで行ったライヴを収録したのが『アット・パイオニア・ワークス』(2021)。女性三人の基本編成に男性サポート・ギターリストがくわわっています。

ライヴだからといってとくに映えるような派手な音楽は展開しておらず、演出もなく、淡々とギター・ティンデをやるだけなんですが、その一聴、地味とも思えるような平坦なグルーヴこそが、実はこの手の音楽のヒプノティックな魔力だろうとぼくには思えます。

つまり、モロッコのグナーワ、アメリカのヒル・カントリー・ブルーズ、アイヌのウポポなんかにも相通ずるようなワンネス旋回反復の快感。グンともりあがったりするパートなどもないので、どこが聴きどころかわからず、なんだかつまんないな〜ってなりそうなそこ、そこにこそこの手の音楽のトランシーで呪術的な作用があるでしょう。

レ・フィーユ・ド・イリガダッドのこのライヴ・アルバムだって、聴いているうちいつのまにか徐々に快感が昂まって、まるで低温やけどのように or ぬるめのお風呂にゆっくり長時間つかったあとのように、芯まで熱せられ、最終盤の6曲目あたりではすっかり心地よさに満たされているのがわかります。

(written 2022.3.8)

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