しんどいとき助けになる音楽(2)〜おだやかなマイルズ
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Miles Davis / おだやかなマイルズ
ハーマン・ミュートをつけて、玉に露とばかりきれいに吹く主にバラード系のときのていねいなマイルズ・デイヴィスが心から好き。でもそういうのってこの音楽家の生涯をふりかえってみると1950年代後半だけで、それ以前にもそれ以後にもありません。
バラディアーとして完成したのが1955年付近ですからそれ以前にないのはとうぜんとして、60年代に入ってからはきれいなバラードをあまりやらなくなりました。特にハービー・ハンコックらをメンバーにしてからはチャーミングなスタンダードなどスタジオでは皆無。ミュートも前ほどつけなくなったし。
復帰後の80年代はハーマン・ミューティッド・バラードが復活したとはいえ、今度はトランペッターとしての衰えをみせるようになり、それでもときたまビックリするような極上の輝きを聴かせることもありはしましたが例外的、全体的にはやっぱり往時におよばず。
てなわけで、マイルズの1950年代後半、だけでなくそのちょっと前とちょっと後もふくみ(1954〜63)、ミュートをつけたきれいなきれいなバラード吹奏だけを集めてセレクション・プレイリストにしておきましたのがいちばん上のリンク。
最初の二曲はハーマンじゃなくてカップ・ミュートなんですが、ファースト・レギュラー・クインテット結成後のおなじみの世界がすでにあります。そんで、こういうときのマイルズってややフェミニンで、やさしくやわらかく、心身が弱っているときにはちょうどいいなぐさめになりますよね。
ガツンとくるようなファンキーでガッツのある音楽は今まずいんで、痛いところがもっと痛くなりそうで。だから極力刺激しないように、こわれそうな自分を支えておくため、音楽だっていまにも割れそうな薄いガラスとか卵の殻とか、そういうひ弱いもののほうが(ぼくは)気分にあいます。
まるで病院とかクリニックでやさしくていねいに面倒をみてくれる看護師さんのかけることばや手のような、そんな音楽ですよ、こうしたマイルズって。
(written 2023.8.12)