イージー・リスニング・ソウル・ジャズ 〜 ボビ・ハンフリー
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Bobbi Humphrey / Flute-In
ジャズ・フルート奏者、ボビ・ハンフリーのブルー・ノートからのデビュー・アルバム『フルート・イン』(1971)。以前、ブルー・ノート公式TwitterやInstagramがボビのそのころのアルバムをさかんにアピールしていたことがあって、ちょっと気になっていました。過去の名盤シリーズってこと?『ブラックス・アンド・ブルーズ』のことだけだったかなあ?
わかりませんが、とにかくぼくもチラチラSpotifyで聴きなおしたりしているうちに、なかでも『フルート・イン』がいちばん聴きやすいし、デビュー作ながらなかなかいい内容なんじゃないかと思えてきました。よく知っている有名曲をたくさんやっているのもポイント高しですね。
そう、聴きやすいっていうのがこのアルバムの最大の特色かもしれませんよね。特にレコードでいうA面(5「スパニッシュ・ハーレム」まで)。A面はそれこそ名の知れた有名スタンダード曲ばかりで、ビル・ウィザーズの「エイント・ノー・サンシャイン」、キャロル・キングの「イッツ・トゥー・レイト」、リー・モーガンの「ザ・サイドワインダー」、ジェリー・リーバーの「スパニッシュ・ハーレム」など。
アレンジがたぶんウェイド・マーカスで、ファンキーというかジャズ・ファンク、いやソウル・ジャズかなここでは、そんなサウンドになっています。しかもハードでシリアスな雰囲気じゃなくて、ポップでイージー・リスニングな路線になっているのがなかなか楽しいんじゃないかと思うんですよね。
「ザ・サイドワインダー」だけはジャズ・オリジナルということで、トランペットとフルートのソロなんかもあるんですけど(ボビを見出したリー・モーガン自身が参加している)、それでもフィーリングは軽いですよね。ライト・タッチのソウル・ジャズっていう感じ。聴きやすい。A&Mからのアルバムだとしても違和感なしです。
そんなところ、「エイント・ノー・サンシャイン」や「イッツ・トゥー・レイト」みたいなポップ・チューンだといっそうきわだっています。アド・リブ・ソロがほんのちょっとしかなくて、っていうかこれはほぼソロなしで、ボビがフルートで淡々とシンプルにメロディを美しく吹くだけ。だから演奏時間も短いでしょ。
もうほとんどジャズ・アルバムですらない感触で、この『フルート・イン』A面のこのイージー・リスニング・ソウル・ジャズなテイストは、それでもなかなか得がたい心地よさがあるなと思うんですね。フルートというさわやかで軽やかな音色の楽器であることも、この特色に大いに貢献しています。
B面(6「ドント・ナック・マイ・ファンク」から)は様子が変わります。ハードなジャズ・ブロウも交えてのセッションで、ウェイド・マーカスのアレンジも活きていますが、それ以上に個人のソロだってなかなか聴かせる内容です。
三曲通しぜんぶで吹いているビリー・ハーパーのテナー・サックス・ソロなんか、いつものシリアスな調子で、やっぱりこのひとは真摯だなあって感心しますよね。三曲ともかなりいいテナー・ソロ内容です。メンバーのなかでいちばんいいソロじゃないですか。
最後の二曲にはここでもやはりリー・モーガンが参加しているんですが、リーのソロもボビのフルート・ソロもいいし、特に八分以上もやっている7「ジャーニー・トゥ・モロッコ」など、なかなかグッと来る内容です。かなりハードでジャジーでもあって、軽くポップなイージー・リスニングなA面とはこりゃまたぜんぜん違いますね。
だからA面とB面の差が激しいアルバムでもあったのでした。
(written 2020.11.11)