演歌第七世代と岩佐美咲
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こないだ「うたびと」っていう演歌歌謡曲系アカウントがコラムをネットに載せていました。題して「【演歌第7世代とは?】令和の演歌界をけん引する歌手の特徴と第1~第6世代の歴史」。
たしかにいま演歌第七世代ということが言われていて、どうもお笑いの世界で新感覚の若手たちを第七世代と呼びはじめたのがルーツらしいんですけど、そこから演歌界にも派生して歌手の美良政次が使いはじめたのが演歌第七世代という表現。
明確な定義はないものの、デビューして五年程度未満で、世代的に20代〜30代前半の若手演歌歌手を指してひとくくりにしているものですね。上掲うたびとのコラムでは歌手の具体名を列挙してあって:
・中澤卓也
・新浜レオン
・真田ナオキ
・辰巳ゆうと
・青山新
・門松みゆき
・望月琉叶
というリストになっています。
ほかにもたくさんいますが、このへんの若手演歌歌手たちは、ぼくもふだんから知っていて聴いています。なぜなら2017年初春に岩佐美咲を知って好きになり、その流れで必然的に関連する情報をフォローしたり聴いたりするようになったからです。
キャリアや年齢だけでなく、こうした新世代演歌歌手たちには一定の共通項があります。現代に即したアプローチをしているということなんですが、ファンとの距離感が近く、TwitterとかInstagramで積極的に発信し、YouTubeなども活用しているんですよね。みんなそう。
インターネット、特にソーシャル・メディアの活用は、ちょっと前までの演歌歌手では考えられなかったことですし、実際2021年になっても旧世代歌手たちはアカウントすら持っていません。代わりに事務所スタッフが投稿しているだけ。
演歌第七世代の歌手たちは、スタッフではなく自分がソーシャル・メディアでふだんの日常をどんどん発信して、ファンとの距離を縮めているんですよね。仕事関係の投稿だって、いつどこでイベントやコンサートをやるといった大事なことも、そもそもTwitterなどでまず情報公開されたりします。
ソーシャル・メディアでのファンとの交流や距離感云々は歌手活動と関係ないじゃん、もっと歌の特徴を言わないと、という声もありますが、ささいな日常のことをやりとりしながら距離を縮め日常感覚を大切にしていくというところから、じゃあちょっと歌も聴いてみよう、CD買ってみよう、ツイートされていたイベントやコンサートへ出かけてみようということにつながったりもしていますので。
つまり歌手芸能活動のありかたの根本が、そもそも旧世代とは大きく異なってきている、新感覚を身につけた新世代ならではの姿がそこにあるということで、SNSでの交流・距離感やらみたいなことは、あんがい無視できないことですよ。歌の仕事に直結しているとも言えるんです。
もちろんこういったこと以上に大切なことは、歌唱表現上の新傾向、特色が演歌第七世代には聴かれることでしょうね。演歌のヴォーカル・スタイルにおける新傾向については、今年元日付の記事で特集したことがあります。それのくりかえしになってしまうのですけれども。
つまり、従来的な演歌で聴かれるような過剰で濃厚で劇的なヴォーカル表現をとらないということです。コブシもヴィブラートもなし、エモーションを抑制してさっぱりナチュラルな声の出しかたや歌いまわしをしていて、実を言いますとこの手の表現様式は、わさみんこと岩佐美咲がはじめたものだと言えるので、美咲こそがオリジネイターなんです。
そのへんのこと、演歌第七世代という表現がまだこんなに普及していなかった時期に、ぼくなりにまとめて新時代の新傾向歌唱法の特色を、上の記事で箇条書きで整理してありますので、ここであらためてくりかえしておきましょう。
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1)(演歌のステレオタイプたる)おおげさで誇張された劇的な発声をしない
2)だから、泣き節、シナづくりといった旧態依然たるグリグリ演歌歌唱法は廃している
3)フレイジングも、持ってまわったようなわざとらしいタメ、コブシまわし、強く大きいヴィブラートを使わない
4)濃厚な激しい感情表現をしない、エモーションを殺す
5)力まない、揺らさない、ドスを利かせない
6)端的に言って「ヘンな」声を出さない
7)代わりに、ナチュラル&ストレートでスムースな、スーッとあっさりさっぱりした声の出しかたや歌いかたをする
8)発声も歌唱法も、ヴォーカル・スタイル全体がおだやかで、クールに抑制されている
9)それでも演歌歌手らしい強めのハリとノビのある声は維持している
10)このようなヴォーカル・スタイルで、旧来の演歌が表現していた非日常的な演劇性、物語性を除し、ぼくたちのリアルで素直な生活感覚に根ざしたストレート・フィーリングを具現化している
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こうしたヴォーカル・スタイルを演歌界で最初にとりはじめた第一人者とも言える存在が、2012年デビューの岩佐美咲であるというのがぼくの考え。26歳ながら今年でデビュー10年目というキャリアの持ち主であるがゆえ、第七世代には入れてもらえない美咲ですが、歌唱スタイルは間違いなくその先駆者です。
美咲が「無人駅」でデビューした2012年というと、上で名前があげられているいわゆる演歌第七世代の歌手たちはまだだれも出現していなかったわけですけれど、しかしその「無人駅」を聴けば、演歌フィールドにありながらコブシなしヴィブラートなしのさっぱり薄味の新世代歌唱法をすでにしっかり実現し確立しているんですよね。
うたびとの記事で取り沙汰されているソーシャル・メディアでの本人による積極的な発信と交流、距離感なども、美咲はいち早くはじめていました。美咲がTwitterをどんどん活用しているからというんで、老年ファンでもアカウントをつくるようになったりしているんですからね。
まとめてみれば、キャリアの長さゆえなかなか第七世代とは認めてもらえない美咲ではありますが、若年世代であるということ、新感覚の歌唱法、積極的なソーシャル・メディアの活用など、どの点から見ても美咲こそ演歌の新時代をリードしてきたパイオニアだったと言えるんです。
だから、たまには演歌第七世代の先駆けとして評価する内容の記事が出てもいいんじゃないでしょうか。
(written 2021.11.25)