レトロこそコンテンポラリーだ 〜 いつも曇り空レイヴェイのニューEP
Laufey / Falling Behind
お気に入りシンガー・ソングライター(ギター、チェロ、ピアノなど)のレイヴェイ(アイスランド出身、在アメリカ)、なにかあたらしいEPが出ていますね。『フォーリング・ビハインド』(2022)。たった五曲17分ではありますが、楽しいので、ちょこっとメモしておきます。
調べてみたところ、これはどうもレイヴェイ初のフル・アルバム『Everything I Know About Love』が今月26日にリリースされる、その先行露払い的な意味合いのものみたいです。CDとかフィジカル・リリースもあるんですかね?日本でも出る?ぼくはグローバルなサブスクで聴くけれども。
レイヴェイ(Laufeyでこう読む)については、以前最初のミニ・アルバム、というかEPなんですけど『ティピカル・オヴ・ミー』(2021)が出たときに聴いて、骨抜きにされちゃって、記事にもしました。
これはデジタル・リリースだけでフィジカルがなく、配信だってインディというか個人でのもので、だから一部好事家のあいだでしか話題にならなかったような記憶があります。でもゆっくりちょっとづつファンが増えつつあるぞというのがぼくの手ごたえとしても確実にあります。
個人的にはジャズというより「レトロ・ポップス」の枠でレイヴェイのことは扱っていて、実際ブログではそのカテゴリーに分類してありますが、まさにこれこそレイヴェイの資質をぴったり言い当てたものに違いないと確信しておりますね。2020年代の新人なのに、やっているのは1950〜60年代スタイルのアメリカン・ジャジー・ポップスなんですから。
「あのころの音楽」に対する憧憬みたいなフィーリングがいはゆるZ世代(レイヴェイは23歳)にはあって、物心ついたときにはスマートフォンでのどこでもネット常時接続があたりまえだったから、そういうものがなにもなかった、みんながつながっていなかったあの時代への眼差しにマジな切実さがこもるんだろうな、自分たちの時代では不可能な、失われたなにかを求めて、ということだろうとぼくはみています。
そういった感覚がいまは現代的なんですから、「レトロこそコンテンポラリー」なんだという言いかただってできると思いますね。オールド・ファッションドこそ最先鋭トレンドだっていうか。
レイヴェイのばあいインドアもインドア、室内楽的というもおろか、完璧陰キャなベッドルーム・ポップ的密室性もあって、パソコンで使う音楽制作アプリが充実するようになったからこそですが、インティミットな仄暗さが音楽にただよっているのも個人的にはグッド・ポイント。
声じたいが低音域寄りで暗さがあってこもったようなクォリティですから(書くメロディ・ラインもそう)、それでもって今回のEP『フォーリング・ビハインド』も、うまくいかない内気で怯弱で引っ込み思案な引きこもりの恋愛模様を描いているのはいままでどおり。レイヴェイのサウンドスケープはいつも曇り空っていうか、底抜けの青空なんてないですよね。
それでも今回はボサ・ノーヴァ調のものが二曲あって、特に1曲目のタイトル・ナンバーには、歌詞はやっぱりあれだけど、メロディやリズムにはやや陽光がさしたようなフィーリングもあります。本人が「サマー・アンセム」と言っているとおり、真夏にあって、それでも自分ひとりだけイマイチ乗り切れない切ないフィーリングをうまくつづっていますよね。
さて、8月26日にはこれらをふくむフル・アルバムが出るということなんですが、それでこの音楽家の知名度と人気がおおきく上がるでしょうか。CD出るかな?紙の雑誌など音楽ジャーナリズムはいまだフィジカル・リリースがないと取材しないし記事にすらしないっていうような時代錯誤なので(だからもうあきれて買わなくなった)すが、そんな層にも届くようになればレイヴェイの真価と魅力がもっと伝わると思うんですけどね〜。
(written 2022.8.16)