驚くべき才能 〜 レイヴェイ『A Night at the Symphony』
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Laufey, Iceland Symphony Orchestra / A Night at the Symphony
予定どおり3月2日に日付が変わったらリリースされたレイヴェイ期待のニュー・アルバム『A Night at the Symphony』(2023)。昨年10月26、27日、故郷レイキャヴィクのハルパ・コンサート・ホールで開催されたアイスランド交響楽団との共演コンサートから収録したもの。
一曲「ヴァレンタイン」だけ先行で聴けていましたが、アルバム全体を楽しめるようになってみると、予想していたよりもずっと極上の内容で、オーケストラの演奏もたいへんに美しく、もともと線の細いレイヴェイのヴォーカルはだからかすかに心配もあったのがぜんぜんしっかりしていて、これなら文句なしです。
いまのところ配信しかないのでくわしいデータがいっさい不明ですが(発信してくれないか?>レイヴェイ)、だれがオーケストラ用の管弦打アレンジを書いたのか、とってもすばらしいだけに、おおいに気になるところです。ロマン派ふうのゴージャスな響きに聴こえます。
あるいはひょっとしてそれもレイヴェイ自身のペンだったという可能性がほんのりあるような、かすかな情報の断片を組み合わせるとそんな気がしているんです。去年秋のコンサート直前で公式Instagramに上がっていた数々の写真のなかには、自身が総譜を手にとりそんな様子を見せているものが複数ありました。
クラシック音楽家の祖父と母を持っていて幼少時から親しんでいたようですし、バークリー音楽大学を卒業しているし、近年もふだんから聴いているクラシック音楽のジャケット写真がソーシャル・メディアによく上がっています。オーケストラ伴奏で歌うナット・キング・コールやフランク・シナトラなどが好物みたいですし。
今回レイヴェイ自身がアレンジもしたのかも?という、もしかりにこの推測が当たっているとすれば、驚くべき才能じゃないでしょうか。いままでの作品はギターやピアノの弾き語りを主軸に据え、そこに若干のゲスト参加ミュージシャンズやDAWアプリで音をくわえ、陰キャなベッドルーム・ポップっぽくこじんまりと仕上げていました。
そんな曲の数々もフル・オーケストラの伴奏がつけばここまでゴージャスでリッチなサウンドで生き生きとふくらみ躍動するとわかり、歌のほうもそれにあわせて(いままでとはすこし違い)丸く聴きごたえのある声質で魅了するしで。最初からティン・パン・アリーのものに酷似したクラシカルなテイストのソング・ライティングをする天才ではありましたけど。
だからいままでは実現しなかったけれど、レイヴェイの書く曲はこうしたオーケストラ・サウンドによく合致するタイプのメロディ・ラインや和声進行を持っていたもので、ヴォーカルともども機会さえ与えられれば飛翔するだけの資質をかねてより備えていたのかもしれません。
なお、曲により自身のピアノ、エレキ・ギター、チェロ演奏も聴かせています。もはやそれらの楽器のレイヴェイ・スタイルにはすっかり親しんでいますので、オーケストラのメンバーによるものでないことはわかります。
(written 2023.3.3)