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パット・マシーニー・グループの変遷

(10 min read)

きのう書いたレオ・リベイロでやはりパット・マシーニー・グループのことを思い出し、聴きなおしたくなってひっくりかえして聴いていました。ぼくが好きなパット・マシーニー・グループは1980年代後半あたりのそれで、あくまで『スティル・ライフ』から『レター・フロム・ホーム』を経て『ウィ・リヴ・ヒア』のあたり。その前後は実はそうでもないんですけれども、今回ぜんぶひっくるめてもう一回聴いてみて、感じたことを記しておきたいと思います。

まずパット・マシーニー・グループの作品をリリース年順に列記しておきましょう。自分の整理のために。ライヴ・アルバムとコンピレイションは外しました。また1985年の『ファルコン&ザ・スノウマン』は映画のサウンドトラックということでディスコグラフィから外されることも多いんですけど、きょうは並べておきました。

1. Pat Metheny Group (1978) ECM
2. American Garage (79) ECM
3. Offramp (82) ECM
4. First Circle (84) ECM
5. Falcon & the Snowman (85) EMI
6. Still Life (Talking) (87) Geffen
7. Letter From Home (89) Geffen
8. We Live Here (95) Geffen
9. Quartet (96) Geffen
10. Imaginary Day (97) Warner
11. Speaking Of Now (2002) Warner
12. The Way Up (2005) Nonesuch

ぜんぶで12作。少ないような多いような。発売レーベル名も記しておいたのは、音楽性の変遷と個人的嗜好を考える際大切になってくるからで、このことはあとで述べます。さて、これら12作を音楽傾向とその変遷で考えると、おおよそ三つの時期に分けることができるんじゃないかと思うんですね。

・初期 『オフランプ』まで
・中期『ファースト・サークル』から『ウィ・リヴ・ヒア』まで
・後期『カルテット』以後

個人的な履歴をちょっと思い出しておくと、パット・マシーニーというギターリストのことは、ジョニ・ミッチェルのライヴ・アルバム『シャドウズ・アンド・ライト』(1979)に参加していますから、1970年代末から知ってはいたんですが(ジャズ・ファンもみんな買ったアルバム)、パット自身のソロ・アルバムやパット・マシーニー・グループのアルバムふくめ、パット名義のものをはじめて聴いたのはかなり遅くて、なんと1995年のPMG『ウィ・リヴ・ヒア』からでした。

これにもう強い感銘を受けたんですね。一般的評価は必ずしも高くないアルバムかもしれないですけど、な〜んてカッコいい音楽なんだと、特にアルバム冒頭の三曲がすんばらしいと、ぼくはもう感激しきりで。これを買ってみようと思ったのにはきっかけがあります。当時まだ一般的だったFM雑誌を毎号買っていたんですが(『FMファン』だったかな?忘れました、何種類かありましたよね)、当時のFM雑誌は総合音楽誌みたいな役割も担っていたわけなんです。

毎号新作紹介のディスク・レヴューみたいなのも掲載されていてまあまあ充実していました。それで1995年のある号でどなたかがPMGの『ウィ・リヴ・ヒア』をとりあげてくれていたんです。ページでそのジャケット写真を見て惹かれちゃったのと、レビュー内容にも興味を持ったのとで、CDショップでさがしてみたわけなんですね。

『ウィ・リヴ・ヒア』は、ドラム・ループなんかも使ってあったりして(プログラマー名もクレジットされている)PMGとしては異色作だったのかもしれないんですが、いま考えたらその前からのPMGのブラジルはミナス路線(『スティル・ライフ』『レター・フロム・ホーム』)と、1990年代半ば当時の最新音楽潮流とがある意味合体し、以前からのジャズ路線だってあるという、ちょっとした意欲作でした。これでPMGとパットに惚れちゃったぼくは、その後ソロのでもグループのでも、どんどんCDを買うようになったのです。

PMGの作品でいえば、ですから『スティル・ライフ』『レター・フロム・ホーム』あたりの路線がほんとうに大好きで、特に一番好きなのはあのヴォーカルですね、歌詞のないスキャットみたいなもんなんですけど、いろんな文章で「無国籍ヴォーカル」と書いてあるやつです。でも決して無国籍というわけじゃなくてブラジルのミナス音楽にひじょうに強い影響を受けたヴォーカル・スタイルなんですね。主に歌っているペドロ・アスナールはアルゼンチン出身ですけれども。

いま、PMGの全作品をじっくり聴きかえし考えてみても、この『スティル・ライフ』『レター・フロム・ホーム』はも〜う超絶的な大傑作なんだとしか思えず、どう考えてもこの二作がこのバンドの頂点でした。ジャズ、ロック、ポップス、アフリカ、ラテン、ブラジル(特にミナス音楽)そのほかワールド系などが渾然一体となってシンフォニックに溶け合い壮大に展開していくさまを聴いていると、いまでも鳥肌が立つ思いです。

そんな路線のハシリが1984年の『ファースト・サークル』で、ペドロ・アスナールがはじめて参加したアルバムでした。でもまだシンフォニックなワールド・ミュージック路線をフル展開してはいませんね。そこにはおそらく当時まだ所属していたECMのマンフレート・アイヒャーとの齟齬があったんじゃないかというのがぼくの想像です。それまでのすべてのPMGの作品はアイヒャーがプロデュースしていますからね。パットがグループで展開したい音楽にプロデューサーのアイヒャーがやや待ったをかけた折衷的な作品が『ファースト・サークル』だったかもしれないような気がします。

はたして、パットはそれを最後に、音楽制作の自由を求めてECMを去り、サウンドトラック盤『ファルコン&ザ・スノウマン』を経て、自分で音楽制作プロダクションを立ち上げ、配給をゲフィンに任せることになったのです。その結果が『スティル・ライフ』『レター・フロム・ホーム』『ウィ・リヴ・ヒア』となって結実しました。その直前の『ファルコン&ザ・スノウマン』にはデイヴィッド・ボウイが歌う「ディス・イズ・ナット・アメリカ」も収録されていて、個人的にはなかなか好きな一枚。

そんなわけで、ECM時代のPMGがどうしてもイマイチに思えてしまうんですが、なかでは『アメリカン・ガレージ』がいちばん好きですね。やっぱりアルバム終盤のタイトル曲と「ジ・エピック」、特に後者のダイナミックでシンフォニックな展開はのちの傑作群を予告させる内容で、聴きごたえありますね。

『ウィ・リヴ・ヒア』のあとからを後期PMGと呼びたいですが、四人だけでやった『カルテット』、実験的な『イマジナリー・デイ』を経て、心機一転、メンバーをかなりチェインジして新生パット・マシーニー・グループとして出発したのが2002年の『スピーキング・オヴ・ナウ』です。これと次の『ザ・ウェイ・アップ』(2005)と二作しか残さずグループは自然消滅、ライル・メイズが亡くなったいまとなっては再起動もありえないというのがちょっぴり残念な気もします。

そのへんのPMGでは、『スピーキング・オヴ・ナウ』はなんだか『ファースト・サークル』のころの音楽に戻ってしまったような感じで、イマイチに感じますが、次の『ザ・ウェイ・アップ』はかなりいいですよね。個人的には傑作と呼んでもいいんじゃないかと思うほど。ただしそうとわかるようになったのはついきのうのことで、2005年にCD買ったときはシリアスな大作主義になじめず、二回くらい聴いてそのまま放置していましたけどね。

『ザ・ウェイ・アップ』は、ミナスとかブラジルとかアフロ/ラテンなワールド・ミュージック路線を(直截的には)抜いた上でのジャズ・アルバムなんですよね。それもストレート・アヘッドなメインストリーム・ジャズ作品なんで、ジャズ・グループとしてのこのバンドの演奏実力を見せつけた(たぶん一発即興録音だったと思う)充実作じゃないですか。この路線のままこのメンツでもう一つ二つ作品を聴きたかったという気持ちもあったりします。

(written 2020.8.25)


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