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マイルズを深掘りする(1)〜 プレスティジ時代

(7 min read)

マイルズ・デイヴィスのイメージっていうか代表曲ってどのへんでしょうねえ。みなさんが抱いている一般的なイメージとしては、たぶん「ラウンド・ミッドナイト」「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」「ソー・ワット」とか、そのへんじゃないかという気がします。

電化時代なら「イン・ア・サイレント・ウェイ」「ビッチズ・ブルー」とか、あるいは「タイム・アフター・タイム」とか、そういったあたりが “Miles Davis” という印象を決定づけているシンボル、シグネチャーかもしれません。

それでもちろん間違っていませんが、そこまでだとあくまで入口に立っているだけなんですよね。あまり知られていないもの、まったく有名じゃないもののなかにも名演・良演はたくさんあって、そのまま知られず埋もれてしまうにはあまりも惜しいんです。どんな音楽家でも有名曲だけ聴くんじゃ、もったいないと思いませんか。

そこで、そんな知名度の低い、まったくないマイルズの好演をちょっとだけピック・アップしてみなさんにご紹介するというシリーズをはじめてみることにしました。題して「マイルズを深掘りする」。四日連続の予定で、(1)プレスティジ時代、(2)コロンビア時代アクースティック篇、(3)エレクトリック篇、(4)1981年復帰後。

いわば隠れマイルズ、裏マイルズです。

どれを良演と思うかはもちろん個人的感覚ですが、無名かどうかの判断は経験的常識だけでなくSpotifyでの再生回数(が四月から出るようになった、デスクトップ・アプリだと)をかなり参考にしました。

きょうの第一回は、メイジャーのコロンビアに移籍して大きな存在になっていく(のは1957年から)前のプレスティジ時代からのセレクションです。コロンビア移籍前のマイルズは、キャピトル、ブルー・ノート、デビューにも録音がありますが、音源数の多いプレスティジに限定しました。

プレスティジのマイルズというと、なんといっても進行形(〜in’)四部作が傑作で、たしかに名演揃いですが、知名度がかなり高いので、今回のテーマからはもちろん外れます。外しても、まだまだいい演奏がたくさんあるんですよ。各曲の収録アルバムは、いちばん上でリンクしたSpotifyプレイリストをごらんください。以下、カッコ内の数字は録音年月日。

1. Dr. Jackle (1955/8/5)

 ごくうまなヴァイブラフォンはミルト・ジャクスン。曲はアルト・サックスで参加しているジャッキー・マクリーンの作品で、こんなふうにブルーズをミドル・テンポでグルーヴさせるのがなんとも心地いいですね。ユーモラスな味もあって、つまりファンキー。

2. In Your Own Sweet Way (56/3/16)

 この曲は同年五月録音のレギュラー・クインテット・ヴァージョンが『ワーキン』に収録されていますが、どう聴いてもこっちがよりチャーミング。ピアノはトミー・フラナガン、テナー・サックスはソニー・ロリンズ。バンドもマイルズもていねいでリリカルですね。

3. Doxy (54/6/29)

 ソニー・ロリンズ作のひょうきんなファンキー・ナンバー。『バグズ・グルーヴ』B面ではこれがいちばん楽しいのでは。ピアノのホレス・シルヴァーも持ち味を発揮しています。こういう愉快にひょこひょこと上下するラインを演奏するものは、ある時期以後なくなってしまいました。

4. Blue Haze (54/3/15)

 軽視どころかまったく無視されているアルバム『ブルー・ヘイズ』からとった、なんの変哲もないシンプルな定型ブルーズ。ワン・ホーン・カルテット編成でただ淡々と吹くマイルズの演奏にうまみを感じます。ピアノはホレスで、この当時気に入っていたみたいです。

5. My Old Flame (51/10/5)

 ビリー・ホリデイがコモドア盤(1944)で歌ったのを下敷きにしたんじゃないかと思います。むかしの恋を思い出す内容の、独特の仄暗さがある情緒的な名バラードで、未完成な時期ながらマイルズの資質にはピッタリ。テナー・サックスはソニー・ロリンズ。

6. Will You Still Be Mine (55/6/7)

 マット・デニス作のチャーミングなラヴ・ソングをスウィンギーかつ軽快にこなすバンドとマイルズがとてもいいですね。すでにピアノはレッド・ガーランド、ドラムスはフィリー・ジョー・ジョーンズ。

7. Gal In Calico (ibid)

 レッド・ガーランドのピアノ・イントロもチャーミングなバラード(アーサー・シュウォーツ作)。その後トレード・マークになったハーマン・ミュートを付けてのマイルズの演奏がステキ。ピアノ・ソロ前半は鈴の転がるようなきれいなシングル・トーンで弾き後半をブロック・コードでもりあげるガーランド・スタイルも確立されています。

8. Blue ’n’ Boogie (54/4/29)

 収録されているアルバム『ウォーキン』は名盤として名高いものですが、1960年代まで頻繁に演奏されたその1曲目のタイトル曲もさることながら、それに続く2曲目のこの快速調で飛ばすディジー・ガレスピー・ナンバーがむかしからぼくは大好き。グルーヴしていますよね。アレンジはピアノで参加しているホレス・シルヴァーのものと思います。

9. Green Haze (55/6/7)

 これもやはり『ザ・ミュージングズ・オヴ・マイルズ』より。大好きなんですよねこのワン・ホーン・アルバム。やはりストレートな定型スロー・ブルーズですが、ピアノのレッド・ガーランドがたいへんブルージーで聴きごたえあります。ブルーな気分をたたえたようなこのゆったりしたノリが、ジャズ・ブルーズのいちばんおいしいところでしょう。ベース・ソロはオスカー・ペティフォード。

(written 2021.5.26)

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