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ブルーな老人たち
(7 min read)
ジョニ・ミッチェルとかヴァン・ダイク・パークスらは、まるで音楽業界、レコード会社が崩落してしまったかのようなことを言うんですけど、なくなったのはCD売り上げであって、音楽じゃないです。
音楽はいつの時代も、それこそ人類の誕生から2021年の現在にいたるまで、ずっとひとびとの生活に欠かせないものとして身近に存在し、愛し続けられてきているもの。それが消えてなくなるなんてことは未来永劫ありえません。人類は音楽生物。人生は音楽。
しかし音楽はレコードやCDと同義ではないんです。このことは人類音楽史をちょっとふりかえってみてもわかるはず。録音技術が確立したのなんてほんの19世紀末のことにすぎず、それまでの何千何百年もの長いあいだにわたり、人類は生演唱音楽とともに生きてきたじゃないですか。せいぜい楽譜。
それがこのたった100数十年間、わずかそんな短い期間、レコード(CD)が身近にあって、それを聴くことが音楽を楽しむということとほぼ同じ意味だった時代を人類が生きてきたからといって、音楽がそれとイコールになったりはしないわけですよ。
それに、CDが売れなくなったいまだって、録音再生音楽はまったく健在です。聴く手段がネット配信(ストリーミング)でということにはなりましたけど、それだってスタジオなりライヴ会場なりで録音したものを流し再生しているだけですから、19世紀末以来のレコード録音・再生技術の歴史は、もちろん生きている、ちっとも廃れてなんかいないわけです。
それをなんですか、老人たちはまるでもう音楽業界が消えてなくなってしまったかのような悲嘆に暮れていますけどね、たんにインターネットで音楽を聴くように時代が移り変わったというのについてこれていないだけでしょうが。
要はパソコン、スマホ、インターネットなどの技術を使えない老人のタワゴトにすぎないわけです。
話をCDに限定すると、レコードからCDへの移行はだいたい1980年代末〜90年代頭ごろで、ネットで曲をダウンロードしたりするようになったのは2000年代はじめごろ。ストリーミング・サービスの出現は2015/16年ごろで、だからCDメディアの全盛期はそのあいだ、すなわち1990〜2010年ごろの約20年間だったということになります。
それは、ここ日本では、たとえば華原朋美や浜崎あゆみがミリオン・セラー、ダブル・ミリオンを連発していた時代と重なります。華原でいえば小室哲哉プロデュース時代が1995〜98年。90年代いっぱいはバカみたいにCDが売れていましたよねえ。
浜崎あゆみが華原のちょとあと、1998年デビューで、2000年代初頭まではやはりCDがトイレット・ペーパー並みに売れていました。浜崎のレコード大賞三連覇が2001〜03年で、だからそこが全盛期でした。しかし両者とも、その後のネット配信時代に対応できず、CDが売れない時代になっていくと同時に歌手としての持続力も失われてしまったかのようになっていますよねえ。
こうしたCDからネット配信へという時代の変化には、演歌勢もついていけてなくて、歌手や所属会社も長年レコードやCDを売るという習慣にどっぷりつかって生きてきたし、新時代のスター演歌歌手、たとえば2000年デビューの氷川きよしですら、その歌はほとんどストリーミングでは聴けません。今年六月に発売されたばかりの新作アルバム『南風吹けば』しかり。CD買えってか?
演歌歌手といえば、ぼくの応援している岩佐美咲ですけど、美咲は1995年生まれ。だから「CDが売れる」という時代の記憶なんかまったくない世代のはず。父母や祖父母の語る思い出話で聞いているだけでしょう。美咲20歳で2015年ですからね。ちょうどApple Musicがサービスを開始したのが15年ですよ。
2012年デビューの美咲にしたって、ストリーミングで聴けるのは全九曲のシングル表題曲だけなんで、このへんはいかにも時代の変化についてこれていない演歌界らしいありさまだなあと感じざるをえません。とにかく美咲はそういう時代に生きて活動している歌手なんで、ともちゃんやあゆみたいにわさみんのCDがバカ売れする、なんていう時代は絶対に来ません。
これからは、たとえば米津玄師とか藤井風みたいにストリーミング時代に対応できる歌手、音楽家が生き残っていく時代になっていくんだなあと、つくづく心の底から痛感しています。もちろんCDがなくなったりはしないです。レコードだっていまだ消えていないどころかもりかえしているんですから。でもみんなが使う音楽再生の中心手段では、もはやなくなった。
それを理解できていない老人が、つまりジョニ・ミッチェル(77)とかヴァン・ダイク・パークス(78)みたいなひとたち。もうそんな世代の嘆き発言を真に受けることはないです。ぼくらまだ還暦前の若い世代はいつまでもCDやフィジカルにこだわらなくても、ネットやパソコン、スマホが使えるんだから、それで音楽を聴くのがいまや世の趨勢なんだから、それでやればいいんです。
音楽がこの世から失われるなんてことはありませんから。CDはもう売れないでしょうけど、業界は健在です。
(written 2021.6.27)