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成熟して落ち着いてきたヒバ・タワジ、それでも完璧 〜『Baad Sneen』
(3 min read)
Hiba Tawaji / Baad Sneen
ヒバ・タワジ(レバノン)の新作『Baad Sneen』(2023)がほぼまったく話題になっていないのは、やっぱりCDがまだないからですよね。そもそも出るのかどうなのか。サブスクなら問題ありませんが、ヒバをサブスクで聴くファンは日本にあまりいないでしょうし。
がしかしヒバやウサマ・ラハバーニ(プロデューサー)のTwitterを見ていてもわかるように、現地やアラビア語圏ではみんなどんどん楽しんでいますし、なんたってもう不足なく聴けるものを無視しているのは気持ちが健康ではありません、ぼくは。アラブ音楽はCD出さない方向に進んでいるのも事実。
ヒバみたいな強烈で濃厚な世界はこのところややトゥー・マッチで遠ざけるようになってはいるんですが、歌手として一流の実力を持った存在であるのは間違いないし、一度は惚れた(特に2017年の『30』で)弱みもあって、『Baad Sneen』もわりとよく聴いていますから、手短に感想を記しておきます。
強烈と書きましたが、それでも2023年という時代を意識してか、ややあっさりめに仕上げているようなところも見受けられるのが特徴でしょうか。濃厚に激しくグイグイ迫るばかりでなく、優しく軽くそっと置きにくるようなヴォーカルに、それでも旧来的ではあるのですが、コンテンポラリーなグローバル・ポップスを意識したような雰囲気も若干あります。
『30』でそこそこ聴けたジャジーな洗練と跳ねる無垢で明るいムードは今回ほぼ消えて、代わってちょっぴりダウナーな落ち着きをみせるようになっているのもポイントでしょう。レバノンの現況および、結婚、出産と人生の経験をたどり(それで制作・発売が当初より遅れたのかも)獲得した人間的円熟が歌に聴きとれるように思います。
大向こうをうならせるような高音部でのパフォーマンスもなくなりましたし、ヴォーカル表現がスムースで自然体に近づいてきているなという印象を持ちました。ウサマのサウンド・メイクは前から完成されていて変化ありませんから、実はそこもちょっとヒバの変化に合わせてすこし淡白系にしてくれていたらもっと好みにしあがったかも。
といってもですね、ラスト13曲目「Ossist Hob」なんかは完璧な大団円。デビューのころとなにも変わらない世界がここにはあって、曲想といい歌いかたといい、後半部〜エンディングにおけるミエを切るようなハイ・レジスターのスキャット飛翔といい、これなら納得でしょう。
(written 2023.5.18)