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ドドンパ歌謡

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ドドンパ歌謡

ドドンパのなかで最も知られている歌は、やっぱり「お座敷小唄」(1964、松尾和子、和田弘とマヒナスターズ)でしょうか。すくなくともぼくにとってはそう。幼少時代の記憶があります。

64年というと二歳なんで、レコード発売時のことを憶えているはずはありません。大ヒット曲だから、その後小中学生のころまでも(ほかの歌手であれ)テレビの歌番組でこれが披露されるのをくりかえし耳にして焼きついたということでしょうね。

そのほか1960年代前半にはたくさんのドドンパ・ソングがつくられヒットして、さながらブームのようになっていました。(歌の世界の)ドドンパってなに?っていう向きもいらっしゃるでしょうが、何曲かお聴きになれば「パ、パラパパッパ」という共通パターンはすぐ把握していただけるはず。それがドドンパ。

ドドンパという文字列が曲題と歌詞に入るものが大半で、もちろん入らない「お座敷小唄」みたいなヒット・ソングもあったわけですが、ビート・パターンに特徴があったので、いはゆるリズム歌謡の一つとされています。

「ひばりのドドンパ」(美空ひばり)、「ドドンパ酒場」(春日八郎)、「東京ドドンパ音頭」(フランク永井etc)、「東京ドドンパ娘」(渡辺マリ)〜〜 これらはすべて1961年発売のシングルで、ほかにも無数にあったので、いかに当時ドドンパが流行していたかわかりますね。

ぼく世代くらいまでだと、こども時分にそのパターンをあまりに耳にしていたがため、意識せずとも体内に沁みついていて、トシくっても聴けばなんだか(失ったスケベさと一体の)懐かしさがこみあげてくるドドンパ、しかしこれはほんのいっときだけの流行で終わってしまい、持続することはありませんでした。

また(東南アジア経由の)ラテン・ビート由来であるにもかかわらず舶来な印象があまりなく、純和風のものに聴こえてしまうのは、音階ゆえでもあるでしょうし、また歌詞の韻律が七五の都々逸であることも理由でしょう。お座敷ネタとかのせいもあるかも。

1960年代初期ほんのいっときだけの一過性の流行で消えてしまったドドンパは、しかし21世紀になっても100%忘れられたわけではなく、2004年に氷川きよしが「きよしのドドンパ」というのをリリースしています。きよしはデビュー期からわりと古めというかレトロっぽい歌を得意としていましたね。

といっても「きよしのドドンパ」は歌詞も都々逸じゃないし、例のリズム・パターンも鮮明ではありません。ぼんやり聴いているとどこがドドンパ?っていう内容ですが、その定型は潜航的に下層にもぐっているような感じ。うっすらですが、たしかにドドンパの痕跡くらいはあります。

これだけじゃありませんがきよしの歌ってレトロ指向でありながらそのままは使わず、ある程度現代的に咀嚼して仕上げているあたりに、いかにも新世代歌手らしさを演出しようとしたんだなっていう製作陣の意図をはっきり感じます。

比較するに、その後さらに10年以上が経過して日本歌謡界でも鮮明な復古ムーヴメントが顕在化して以降につくられたものは、かつてのパターンをそっくりそのまま使っています。徳永ゆうき「平成ドドンパ音頭」(2014)しかり、石川さゆり「昨日にドドンパ」(2017)しかり。

これら二曲は露骨な1960年代初期ふうのレトロ・ドドンパで、さゆりのなんか「むかしの歌がよかったねと思うのは自分だけじゃないはず」なんていう意味の歌詞ではじまりますからね。かつてただよっていたちょっぴりエッチなほのめかしはきれいに消えてしまっていますが、それは時代でしょうね。

(written 2023.2.26)

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