SP針音ノイズはもうレトロ・ポップスでしか聴けない
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ということに実はなってきていて、そんなもんノイズなんかなければないほうがいいじゃないかーっと言われるかもしれないんですけど、あんがいそうでもなかったんですよ〜。ぼくはあのパリパリっていうのが好きでした。SP盤そのものはちょっとしか聴いたことがないけれど、主にリイシューLPで愛していました。
あれが消えてなくなったのはすべてコンピューターによるノイズ除去システムが発達したおかげというかせいというか。おかげで1920〜30年代の古い録音だって、近年のリイシューものサウンドはツルツル。
サブスクはもちろんCDだって近年のリイシュー盤ではもう聴けなくて、CD時代でも最初のころはまだかなり残っていたような記憶があるんですけど、ですからどんどん聴けたのはLPレコード時代でした。
古いSP音源にはマスター・テープなんてありませんから、それをリイシューするのはすべて盤起こし、デジタルなノイズ・リダクション・システムもまだ登場していませんので、レコードをかけてそのまま再録していたわけですよ。そんなLPでたくさんあのノイズが聴けて当時は幸せでした。
あのパリパリっていうのはちょっとどこか音楽的でもあって。演唱と一体化していたっていうか、もちろんレコーディング・スタジオでミュージシャンが出すサウンドはクリーンなものだったし、ライヴ現場でもそうですけど、つまりレコード産業こそ20世紀以後は音楽の主役になったあかしみたいなもんでした、あのノイズは。
ノイズをコンピューターで除去する処理をやると音楽が痩せるとか、そんなことは考えたことないんですけど個人的には、でもあきらかにフィーリングというかムードは変わっちゃいますよね。音楽で最も大切なのがフィーリングだと思っていますからね、ぼくは。
むろんいくら嘆いてみてもあの当時のあのぱりぱり針音サウンドというかつまりフィーリングですけど、それが蘇ってくるわけでもないんで詮ないことです。過去に発売されてぼくも聴いていた当時のレコードをどこかで入手すればまた聴けるのでしょうか。失われた世界。
でもごくたまに(きょうびどうしてだか)ノイズ除去されていないSP原盤の音楽がサブスクなんかにも載ることがあります。初期の美空ひばりなどですけど、アメリカ産1930年代スウィング・ジャズなんかでもときどきめぐりあえたりして、そんなときはうれしくて楽しい。
最新の現代録音なのにあのノイズをわざと入れているレトロ・ポップスがどのへんの世界を志向しているのか、あきらかですよね。その点ではSP針音ノイズは一度失われ、いまやレトロにやや回帰傾向にあると考えてもいいのでしょうか。いつまで現行レトロ・ブームが続くかわかりませんけど、すくなくともその音はもう今後消されることなどありませんから。
(written 2022.10.12)