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ピーター・アースキンのキャリア最高傑作 〜 スティーリー・ダン『アライヴ・イン・アメリカ』2曲目「グリーン・イアリングズ」
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Steely Dan / Alive In America
スタン・ケントン楽団時代(1972〜)、メイナード・ファーガスン時代(75〜)を経て、78年ウェザー・リポートに起用され一躍名をあげたドラマーのピーター・アースキン。ちょうどジャコ・パストリアス在籍時代と重なりバンドの人気絶頂期だったこともあってか、名声を確固たるものとしましたね。
ウェザー・リポートでも最初のころはやや頼りないドラミングが散見されましたが、同バンドで経験を積んで立派な演奏を聴かせるようになったピーターの、そのキャリア最高傑作はスティーリー・ダンのアルバム『アライヴ・イン・アメリカ』(1995)2曲目の「グリーン・イアリングズ」に違いありません(私見)。93年9月10日カリフォルニアでのライヴ。
ライヴ・アルバムとしてはスティーリー・ダンにとっての一枚目にあたるこの作品は1993年と94年のアメリカン・ツアーから収録されていて、それぞれメンバーが微妙に違います。ドラマーにかんしては93年がピーター・アースキン、94年がデニース・チェインバーズ。ゆえに本作で聴けるピーターは2、6、8曲目。
CDだと付属ブックレットにドナルド・フェイゲン本人の書いた一曲ごとの一言メモが載っていて、それによれば8曲目「サード・ワールド・マン」にかんして “Erskine perfect” となっていました。また2「グリーン・イアリングズ」と編集でメドレーみたいにつながっている3「菩薩」でデニチェンを “awesome” と表現。
プロの耳と一般素人の耳は違うもんだとはいえ、ぼくにはどう聴いても「グリーン・イアリングズ」でのピーターのドラミングこそNo.1。傑出しているし、しかも最高に心地いいノリだと思えます。跳ねるバック・ビートが完璧じゃないですか。ウェザー・リポート時代にここまでの演奏はなかったように思います。
イントロ〜歌メロ部分からすばらしいですが、なんど聴いても惚れ惚れとためいきが出るのが間奏へ入ってのギター・ソロ部、特に転調する前まで。そこでのピーター独自のスネア使い、ハタハタ・ドラミングと一般に言われるスタイルはあまりにも快感で、ぼくなんかギターを聴かず、ドラムスにばかり耳がいっちゃいます。
一曲を通しハイ・ハット、シンバル、スネア、タム、ベース・ドラムを駆使してピーターが織りなす打楽器模様はあたかもタペストリーのよう。曲とアレンジをとってもよく理解していて、ヴォーカルとバンドのサウンド全体を活かせるように徹底して考え抜かれた有機的な構成です(ここはウェザー時代に鍛えられたのでしょう)。
まるで歌っているみたいなドラミングでもあり、ビートの根底をこれ以上なく堅実に支え推進させるヴィークルとなり、歌や楽器ソロを引き立ててみずからも存在感を立派に証明しているっていう、これほどまでの演奏をピーターがやったことあったでしょうか。疑いなく最高傑作でしょう。
1970年代からスタジオ密室作業でのドラムス演奏にはこだわりまくったフェイゲンだけに、バンド解散後初のライヴ・ツアーをやるとなってドラマーの選択にはうるさく注文をつけたはず。ピーター・アースキンをまず最初に起用したというのには妥当性があったと納得できるできばえを示しているのがこの「グリーン・イアリングズ」です。
(written 2022.8.4)