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バラフォン演奏もかなりいいジャズ・ヴァイブラフォンの肉体派 〜 シモン・ムイエ
(4 min read)
Simon Moullier / Spirit Song
bunboniさんに教わりました。
(ジャズ・)ヴァイブラフォンの若手って、どうもなんだかニュー・ヨークはブルックリンに集結しているんじゃないかと思うんですけど、違うでしょうか。きのう書いたパトリシア・ブレナンも(メキシコ人だけど)ブルックリン在住。若手最大のスター、ジョエル・ロスだってブルックリンにいますよ。
ステフォン・ハリスは現在西海岸ベースだけどNY出身で、以前bunboniさんが紹介していた台湾出身のユハン・スーだって、ブルックリンじゃないかもだけどNYCに拠点を置いていますからねえ。
そして、きょう書きたいジャズ・ヴァイブラフォンの新人シモン・ムイエ(Simon Moullier)も、フランス人ながら現在はブルックリンに住みそこを拠点に活動しているんですよ。ニュー・エイジ(・ジャズ)・ヴァイブラフォンとブルックリン、こりゃなんかあるよなあ。
ってなことで、シモン・ムイエのデビュー・アルバム『スピリット・ソング』(2020)も、これまたなかなかの充実作です。きのう書いたパトリシア・ブレナンみたいな前衛的でアブストラクトでアンビエントなところなど微塵もなく、明快にガンガン叩く、いわば肉体派ですね。
アルバムのメンバー編成も、自身のヴァイブ+サックス+ピアノ+ベース+ドラムスで、勢いに乗ってグイグイ押す、わかりやすいジャズをやっていますよね。サウンドの響きで工夫するようなところはなく、シングル・トーンで豊かなパッセージをどんどん叩きだすといったあたりに特徴があるひとです。
きのう書いたパトリシア・ブレナン(には惚れ込んでいます)が実験性・前衛性を旨とするソロ即興演奏家だったのに比べ、シモン・ムイエはバンド編成でジャズ王道をまっすぐ進むメインストリーマー。大勢のみなさんにとってはシモンのほうがグンととっつきやすく感じられるでしょう。たしかに明快なヴァイブ奏者です。
サウンド構築もパトリシアとシモンとでは正反対で、パトリシアがまるでシンセサイザーみたいな演奏法をとっていたのに対し、シモンはヴァイブの打楽器奏法から外れることがありません。両手のマレットでがんがんパッセージを叩いていくといったやりかたのひとですよね。フレイジングにも曖昧なところがなく、ノリやすくわかりやすい音楽です。
シモンのそんな打楽器奏法は、アルバムに二曲あるバラフォン演奏でも生きていて、アフリカ音楽的というか、バラフォンをちゃんとパーカッションとして扱っているあたりも、なかなかグッとくるところです。特にアルバム・ラスト9曲目の「Bala」はシモンによるバラフォン多重演奏なんですけど、ある意味この作品のハイライトですね。音色といいフレイジングといい音の重ねかたといい、バラフォンという楽器の特性を存分に発揮した演奏ぶりです。
公式ホーム・ページにバラフォン・ソロ多重演奏のヴィデオが載っているので、ぜひ観てほしいです。ヴァイブ演奏もいくつかあって、あわせればシモンの演奏家としての特徴がよくわかります。
(written 2021.3.13)