演歌とアンプラグド 〜 氷川きよし
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氷川きよしがMTVアンプラグドに出演する(もう収録した?)そうで。しばらく前にちょっとした話題になっていて、一部ではもりあがりをみせていました。きよしについてもMTVアンプラグドについても説明の必要などありませんが、組み合わせが斬新ですよね。
斬新だと思えるのは、きよしだから云々っていうんじゃなく、一般に演歌勢とMTVアンプラグド企画の合体が、いままでになかったんじゃないかと思えるからです。そう、1970年代あたりからの演歌はエレクトリック&エレクトロニックですよね、たいていのばあい。演歌ファンは意識したことないでしょうが。
実を言うとここがちょっと誤解されてきているんじゃないかという気がして、だからきょうこの件で筆をとろうと思ったんですが、演歌は日本の(生演奏)伝統歌謡、古典なんかじゃぜんぜんないのですよ。そうじゃなく、演歌も日本のモダン・ポップスの一種なんです。だから、電気・電子楽器を使うのはあたりまえ。
一般にポピュラー音楽の世界で電気楽器が頻用されるようになったのは、おそらくロック・ミュージックの出現とともに、であったでしょう。だから1950年代あたりからかな、特にギターが電化アンプリファイドされることが頻繁になりました。
同時期にアメリカのリズム&ブルーズやポップスの世界でも楽器のプラグド・インが進んだと思いますが、それまでのオール・アクースティック(生演奏楽器)では出せない音色とサウンドの音楽が実現できるというわけで、スタイル的に新しい音楽には新しい楽器を使いたいといったニーズもあったかと思います。
ほどなくしてベースも(フェンダー・ベース型の)エレキ・ベースとなり、電気ピアノ、電気オルガンなど、ロック/ポップス界を中心に電化アンプリファイド・サウンドの一般化が進みました。
そこから波及して、世界のほぼどんな音楽ジャンルでも電気楽器が普及・一般化したので、まるで電気照明のない家屋がありえないのと同じくらいに、というほど音楽界では電気楽器が当然のものとなり、ある世代以後の音楽リスナーで耳にしたことのない人間は皆無と言えるほどになりました。
日本の流行歌(演歌、歌謡曲、J-POP)の世界でも、もちろん御多分に洩れずエレクトリック・サウンドがある時期以後きわめてとうぜんで、それを疑うことなんて頭の片隅にも浮かびすらもしないといった状態で、それは演歌も例外ではないのです。むしろ、どっちかというと演歌は積極的に電気・電子楽器をとりいれてきたジャンルですよね。
1990年代以後のMTVアンプラグド企画番組のヒットは、こうした一般常識を逆手にとったもので、特にロック・シンガー、ロック・ミュージシャン界隈かな、エレクトリック・サウンドがあまりにも日常的すぎるところにもってきて、あえてオール・アクースティックでやったらどうなるか?という発想をぶつけたものでした。
MTVアンプラグドは、エレキ・サウンドが一般的な主にロック・ミュージシャンたちをどんどん出演させ、アクースティック・セットで演唱させることで、その歌手や音楽家のそれまでにない斬新な側面をみせてきた名物企画。アメリカなどでは1990年代が中心だったと思います。
氷川きよしは2000年デビューですし、積極的にロック/ポップス界ともクロス・オーヴァーしている歌手なので、そんなきよしがMTVアンプラグドに出演してフル・アクースティック・サウンドでどんな歌を聴かせてくれるのか、いまから楽しみに思います。
演歌歌手でも、氷川きよしやもっと若い世代はフル・エレクトリック(&エレクトロニック)・サウンドがあたりまえで、ふだんからずっとそれでやってきているので、あたらめてアクースティック・セットに挑むとどうなるか?という興味は非常に強いです。
ボン・ジョヴィ、ポール・マッカートニー、エリック・クラプトン、ロッド・スチュワートらロック・ミュージシャンたちがみごとな成果を残してきたMTVアンプラグド。これに挑む演歌歌手は氷川きよしが初でしょうから、さて、どんな歌を聴かせてくれるのか?バンドはどんなサウンドで、どんな演奏でサポートするのか?おおいに楽しみですね。
話題をさらった「ボヘミアン・ラプソディ」(クイーン)のカヴァーも、今回アクースティック・ヴァージョンを披露するそうですよ。
8月21日(土)18時より。
(written 2021.7.11)