二枚組の楽しみ 〜 ビートルズ『ホワイト・アルバム』にある小好品
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The Beatles / minor little tunes in The White Album
ビートルズの通称『ホワイト・アルバム』(1968)にかぎらず、フィジカルでいうところの二枚組とか三枚組とかであれば、人気がなく地味で目立たないし傑作でもないけれど、隠れた良品っていうような曲がいくつかあったりしますよね。そういうのが好き。
二枚組LP偏愛志向がぼくにはあったと以前書いたこともありました。
アルバムのトータル再生時間が長くまるごとぜんぶを集中しては聴けないし、音楽家側もどんどん放り込み雑多な曲がごった煮になっているしで、そういうことが起きると思います。リスナーとしての個人的感覚でそういうマイナー良品を見つけては、いつくしんできました。
最近はSpotifyのデスクトップ・アプリで曲ごとの再生回数が出るので、人気のある/なしが客観的に裏付けられるようになりました。それによれば、ビートルズ『ホワイト・アルバム』でよく聴かれている人気曲は、やっぱりね!というものばかり。
「オブ・ラ・ディ、オブ・ラ・ダ」「ワイル・マイ・ギター・ジェントリー・ウィープス」「ブラックバード」の三曲が突出していて、いずれも億回数以上再生されています。なんだよ、サブスク、それもSpotifyだけでの話じゃねえか、と言うなかれ。こういうデータを根拠に全体の傾向を推定するのが科学的統計というものの考えかた。
実際、レコードでもCDでもこれら三曲はたいへんよく聴かれてきていてみんなのあいだで大人気だというのは、長年の漠然とした実感としてもあります。反対にこのアルバムで再生回数が最も少ないのは「レヴォルーション9」の約980万回なのですが、それがかえって物語っているようにこの曲は別な意味であまりにも目立っていて、知らぬひとのないものですから。
ぼくのいう『ホワイト・アルバム』での私的マイナー嗜好品とは、たとえばディスク1だと断然「ロッキー・ラクーン」。これ、どうして好きなんでしょうかね、たぶん一枚目ではいちばんいいんじゃないかっていうくらい。でもむかしからそうだったわけじゃありません。ここ10年くらいの趣味です。
ディスク1だとそのほか「ハピネス・イズ・ア・ウォーム・ガン」「ワイ・ドント・ウィ・ドゥ・イット・イン・ザ・ロード?」とかも大好き。前者はやや有名でしょうか、でも再生回数はかなり少ないんですけど。熱心なマニア、ジョン・ファンが言及する機会が多いということかな。
最近こうなったというんじゃなくむかしから好きだった小良品となれば、たとえばディスク2の「ハニー・パイ」と「サヴォイ・トラッフル」。目立たない地味曲に違いありませんが、ぼくのフィーリングにはピタッときます。前者はわかりやすいですね、1920年代のオールド・ジャズ・ソングふうに仕立ててあるレトロ・ポップ・チューンですから。私的嗜好のどまんなか。
ジョージの「サヴォイ・トラッフル」が大好きだというのがどうしてなのか、出だしのドラムスどこどこが好きなのか、各コーラスともいったんパッとブレイクが入ってから歌がはじまる構成が楽しいし、サックス・セクションのリフだって快適。
ほかにも、たまらないほど好きな「マザー・ネイチャーズ・サン」や、そうでもないけど「レヴォルーション1」や、あんがい再生されていないんだなと知った「ヤー・ブルーズ」もブルーズ・ロック(のパロディだけど)だからもちろん好き。「アイ・ウィル」だってポールのアクギがいい感じ。
(written 2022.2.6)