ロリンズ&MJQ、かなりいいんだなあ
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Sonny Rollins / With The Modern Jazz Quartet
『ソニー・ロリンズ・ウィズ・ザ・モダン・ジャズ・カルテット』(1956)というアルバム題でありながら、ソニーと MJQ が共演しているのはアルバム全13曲中冒頭の四曲だけで、1953年録音。残り九曲は51年録音で、最後の一曲(はピアノがマイルズ・デイヴィス)を除き、ケニー・ドゥルー(p)、パーシー・ヒース(b)、アート・ブレイキー(dms)の伴奏なんですね。MJQ をタイトルに出したのはプレスティジのボブ・ワインストックの趣味でしょう、お気に入りだったみたいですからね。
ともあれこのアルバムがソニー・ロリンズのファースト・リーダー録音です。1951、53年というとハード・バップはまだ勃興前といったあたりでしょう。このアルバム、ぼくは長年なぜだか乗り気がせず、レコードを買ってはあったもののほとんど聴かず、CD でも同様で、ついこないだ Spotify でぶらっとかけてみたというのが真相なんですね。ずーっと知っていながら58歳のジャズ歴41年目にしてはじめてちゃんとこのアルバムを聴いたんです。なんてこった!
そうしたら内容がかなりいいのでびっくり。理由もなしになんとなく聴かなかったというか、録音が1950年代初頭ということで、ひょっとして50年代半ばにロリンズは完成したというあたまがあったせいなのか、遠ざけていて、バカでした。かなりすぐれたアルバムです。1951年録音の初リーダー録音でここまで流暢に吹けているロリンズには驚きますね。いまごろおまえはなにを言っているんだ?!と思われるでしょうけどね。
特に感心したというか感動したのはスタンダード・バラードの演奏ですね。1953年に MJQ とやったのも51年のケニー・ドゥルーらとのセッションも差がないと思いますからひっくるめて語りますが、まず4曲目「イン・ア・センティメンタル・ムード」(デューク・エリントン)、そして6「ウィズ・ア・ソング・イン・マイ・ハート」(リチャード・ロジャーズ)、8「タイム・オン・マイ・ハンズ」(ヴィンセント・ユーマンス)。
フランク・シナトラがトミー・ドーシー楽団時代に歌った9「ディス・ラヴ・オヴ・マイン」もきれいなラヴ・バラードですけど、これらの曲でのロリンズはまったくよどみなくすらすらとチャーミングなフレーズが湧き出てきて止まらないといったおもむき。しかもそのアド・リブ・フレーズが実によく歌っています。アド・リブでここまで歌えるジャズ器楽奏者はほとんどいないんじゃないでしょうか。50年代半ばにロリンズは完成したなんてとんでもない、デビュー作にしてすでに一級品じゃないですか。
それらの演奏の印象がさらにアップする要因は、アルバムの収録曲がいずれも SP サイズの約三分前後におさまっていることです。テーマ吹奏から適度な長さのインプロヴィゼイションまで、整っていて破綻なく、冗長になったり聴き飽きしたりすることのないこのサイズは、ポピュラー・ミュージックを聴かせるのに最適な時間尺かもしれません。ロリンズのチャーミングな演奏がチャーミングなまま終わってくれます。
2曲目「オールモスト・ライク・ビーイング・イン・ラヴ」、7「ニュークス・フェイドアウェイ」、11「オン・ア・スロー・ボート・トゥ・チャイナ」みたいなミドル・テンポのスウィング・チューンも心地いいことこの上なく、このアルバムはだれが共演者であろうと関係なく朗々と吹ける実力の持ち主(である点ではルイ・アームストロングやチャーリー・パーカーやクリフォード・ブラウンと同資質)であるロリンズひとりにスポットライトが当たっている独壇場で、文句なしの一作です。
(written 2020.6.16)