ストーンズ・ファンにとっての悦楽 〜 エル・モカンボ 77
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The Rolling Stones / Live at The El Mocambo
本日リリースのこれがなんであるか、説明などまったく不要。ジャケットはなんだかちゃちゃっとテキトーにやった手抜き仕事みたいに見え、フィジカルなんかほしくない感じですが、中身は言わずと知れた極上品。
1977年リアルタイム発売の『ラヴ・ユー・ライヴ』に収録されていたエル・モカンボ音源(C面)は「マニッシュ・ボーイ」「クラッキン・アップ」「リトル・レッド・ルースター」「アラウンド・アンド・アラウンド」の四曲。
実際ストーンズ・サイドとしてはこのトロントにおける二日間の小規模クラブ・ライヴを back to the early 60’s 的に全曲ブルーズ、リズム&ブルーズのカヴァーのみでやりたいという目論見があったらしいので、当時のリリースはこの意図に沿ったものだったんでしょう。
それにむかしから『ラヴ・ユー・ライヴ』ではC面エル・モカンボ・サイドがいちばん好きだというファンがストーンズ界には多くて、バンドの原点回帰的な初々しいレパートリーと演奏、そしてなによりオーディエンスたった400人の小規模シークレット・ギグというインティミットな空気感がレコードで聴く音響(がどろどろのブルーズ現場的でよかった)にも反映されていてのことだったでしょう。
だからエル・モカンボのフル・コンサートがとうとう日の目を見るぞというニュースに接したとき、なにも知らない情弱無知なぼくなんか、あっ、じゃあストーンズのやるライヴでrawなブルーズ・スタンダードがいっぱい聴けるんだね、やったぁ〜っ!と飛び上がったもんです。
現実には直前にキースがドラッグ不法所持で逮捕されバタバタしてリハーサルができず、ちょっと目標変更して進行中のツアーでふだんからかなりやりなれているストーンズ・クラシックス的なオリジナルと当時の新曲などがかなりたくさん演奏されるということになりました。
それでも60年代初期的な、有名ブルーズ・ナンバーのカヴァーばかりでセットを組み立てたかったという当初の意図は、オリジナル曲をやってもいつもに聴かれないディープでブルージーなフィーリングを表現する結果となって活きていて、当時の新曲でありながらバンド初期のころのようなフレッシュな衣をまとっているのはおもしろいところ。
今回のリリースにあたってミキシングをあらたにやりなおしたボブ栗山も、このエル・モカンボでストーンズが表現していたそんなインティミットな現場感を強くただよわすブルーズ・フィールをどこまでも大切にしてサウンド・メイクしたんだなとわかるのがいいですよね。
これが『ラヴ・ユー・ライヴ』で当時から大きな評価を得たのでということか、その後数年でスタジアム規模の会場でしかツアーできなくなるほどメガ企業化したこのバンドは、しかしそのつど一回はどこかで(ときどき秘密裡に)小さな会場でのクラブ・ギグをやって、立ち位置を確認するようになりました。
ストーンズのエル・モカンボは、原点回帰というか、折に触れてちいさな初心に立ち返ることの大切さを、そのサウンドで身をもって人間的にぼくらに教えてくれています。
(written 2022.5.13)
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