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ひばりの最高傑作は「河童ブギウギ」と「上海」である

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以前からくりかえしていますが、きょうも同じ話です。といいますのも、このへんのことは世間でなかなか認知・理解されていないような気がしてならないからです。

美空ひばりの歌はデビュー期に近ければ近いものほど、ぼくは好きですし、実際すぐれていると思います。デビュー曲の「河童ブギウギ」(1949)と最初期のカヴァー「上海」(53)なんか、もう絶品中の絶品ですよね。

1937年生まれのひばりのステージ・デビューは47年。翌48年に川田晴久と出会い劇場公演に抜擢されたのがひばり飛躍の大きなきっかけでした。まだロックも演歌も生まれる前、日本でもポピュラー音楽といえばスウィング・ジャズ系の軽快に跳ねたりするポップス、流行歌が中心だった時代です。

そんな時代に即応するようにひばりは才能を開花させたんですよね。ちょうど笠置シヅ子のブギ・ウギものが流行していたころで、ひばりはそんな笠置のブギ・ウギ・レパートリーを真似してステージで歌い、人気を博しました。ひばり名義でレコード化されたもののなかに服部良一が(笠置に)書いたブギ・ウギものは一曲もないんですが、かろうじてデビュー曲の「河童ブギウギ」(藤浦洸&浅井挙曄)だけがその面影を残しています。

上にSpotifyのリンクを貼りましたので、いままでご存知なかったかたもぜひひばりの「河童ブギウギ」を聴いてみてください。こんなにもウキウキと陽気で軽快に、ブギ・ウギのリズム・パターンで跳ねるようにうれしげに歌いこなすことのできる歌手なんですよね、ひばりって。曲のおかげもあってちょっとユーモラスっていうかコミカルな要素だって聴きとれるのがまたいいです。

こんな感じ 〜 ブギ・ウギ・ベースのスウィンギーで軽妙洒脱なジャズ系歌手だったような、そんなひばりの資質は、自身が10代だったころは維持していていましたが、のちに演歌路線に転じてからは消滅してしまい、まったく聴けなくなってしまいました。演歌だからダメっていうんじゃありません、ぼくは大の演歌ファンですからね。そうじゃなく、ひばりという歌手本来の資質が奈辺にあったかを考えるとき、演歌調は必ずしも合っていなかったのでは?と思うんです。

そんなひばり本来の資質は、カヴァー・ソング(JLシリーズ)での最初期曲である「上海」でも鮮明に聴けるんじゃないでしょうか。だれひとりとして言及しない、一個も文章の見つからない、ときには二曲目の「悲しき口笛」がデビュー曲とされたりなどもするという、そんなひどい扱いを受け続けている「河童ブギウギ」に比べたら、「上海」のほうはそれでもまだ絶賛するひとがちょっとはいます。

「上海」はドリス・デイが歌った曲で、ひばりヴァージョンはそのコピーなんですね。1953年の日本に、ここまでスウィングできるジャズ系ポップス歌手は皆無だったとして過言ではありません。なんというものすごいスウィング感でしょうか。ドリスのオリジナルを軽々と超えています。ドリス・ヴァージョンを丸コピした英語歌詞の発音だって完璧ですし、ハンド・クラップも効果的な2コーラス目の日本語訳詞パートでは、もはやひばりのオリジナル・ソングと化していますよね。

日本コロムビアのJLシリーズでたくさん英語のジャズ・ソングを歌ったひばり。そのなかの最高傑作が最初に録音した「上海」なんですが、ご存知のとおりひばりは晩年までジャズを得意としていてライヴでも定番レパートリーにしていましたよね。でも演歌でヒットを飛ばし国民的歌手となってからのひばりのジャズからは軽快なスウィンギーさが失われ、ベッタリと重く、ジャズを歌っても魅力の乏しいものとなっていたことを指摘せざるをえません。

比するに10代のころのひばりのジャズ・カヴァーには、曲が本来持っているジャジーなスウィング感を存分に表現できるだけの資質が備わっていたんです。洋楽カヴァーも、「河童ブギウギ」みたいなオリジナル・ソングも、同じ一個の軽快なジャンピーなフィーリングで軽く歌いこなしてみせた若き日のひばり。オリジナルとカヴァーのそれぞれ最初のレコードである「河童ブギウギ」と「上海」こそ、生涯にわたるひばりの最高傑作だったと、この歌手本来の資質をフル発揮したものだったと、ぼくは断言します。

(written 2020.9.18)

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