インスト・ナンバーがいい三作目『ディストラクションズ』〜 RHファクター(3)
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The RH Factor / Distractions
RHファクターの三作目にして最終作『ディストラクションズ』(2006)。ジャケット・デザインは三作のなかでいちばん好きで、渋い感じ。しかし中身も渋くて、ひと時代前のR&B〜ジャズ路線にちょっと戻ったかのような音楽です。だから、これ以前の二作の先鋭的な音楽を愛好していると、イマイチに聴こえないでもなく。
でもそのぶん案外聴きやすいという面があるかもしれないですね。やっぱりインスト・ナンバーとヴォーカル・ナンバーが半々くらいで、それらは傾向がクッキリ分かれています。インスト・ナンバーでは(ストレートな)ジャズを演奏し、ソロ・インプロも聴かせるんですが、ヴォーカル・ナンバーでは1980/90年代っぽいブラコン〜R&Bに近寄っているなと感じます。
「ディクストラクションズ」というアルバム・タイトル・ナンバーが四回出てきますけど、一種のテーマというか通奏低音みたいになっているだけで、それじたいのおもしろさみたいなものは薄いかもなあと思います。それぞれ時間も短いですしね。
それでも12曲目の「ディストラクションズ 4」はかなり聴けます。オルガン・サウンドが印象的なソウル〜ヒップ・ホップ・ジャズで、サウンドもビート感も21世紀的。もっぱらソロをとるロイ・ハーグローヴのトランペットもかなりいいですし、やっぱりビートをつくるドラマーが大活躍で、気持ちいいです。これを1曲目に持ってきたらよかったんじゃないのかなあ。
ふりかえって考えてみれば、このアルバムでもインストルメンタルなジャズ・ナンバーはかなりグッドなのでした。生演奏によるヒップ・ホップなビート感やリズム・パターンのリフが心地いい3曲目「カンザス・シティ・ファンク」、うっすらネオ・ソウルふうのヴォーカル・ハーモニーが背景に入っているけど、都会の夜を思わせるチル・アウトなダウンテンポの5「ファミリー」。
さらにアルバム・ラストの13曲目「ザ・スコープ」がこのアルバムではいちばん聴けるインスト・ナンバーですね。かなりいいですよ。で、これ、ちょっとフュージョンっぽい感じがしませんか。フュージョンといってべつにけなしているんじゃなく、内容のいい上質な音楽だなと思うんですね。従来的な1980年代っぽい印象だけど、ぼくは大好き。後半どんどんテンポ・アップしていきながら、ロイがひとりで吹きまくります。
やや古くさいR&Bっぽいなと感じてイマイチに聴こえるヴォーカル・ナンバーのなかでは、それでもディアンジェロがゲスト参加して曲のプロデュースもしている9曲目「ブルシット」だけが異質で、これだけが浮いているなと思うほどすばらしいです。ディアンジェロにしか決して産み出せないこのスロウ・グルーヴ、最高ですね。
(written 2021.2.9)