チューチョ・バルデスのラテン・ジャズ・ピアノ 〜『ニュー・コンセプションズ』
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Chucho Valdés - New Conceptions
イラケレで知られるキューバのピアニスト、チューチョ・バルデスのソロ・アルバム『ニュー・コンセプションズ』(2003)を聴く機会がありました。知らない作品だったんですけど、あるときブルー・ノートの公式Instagramが紹介してくれていたので興味を持ったんです。
そうしたら、これが!完璧ぼく好みのラテン・ジャズ・ピアノが展開されているではあ〜りませんか!バンドは基本、ピアノ・トリオ+パーカッションという編成で、ちょこちょこ曲によってサックスやフルートやチェロ奏者が参加しますが添えもの。あくまでピアノ中心の音楽です。
+パーカッションも派手で音も大きく目立ちますが、そこはラテン・ミュージックですからね。1曲目、いきなりエルネスト・レクオーナの「ラ・コンパルサ」で幕開けした瞬間から完璧なるマイ・フェイヴァリット・ミュージックが展開されています。チューチョがピアノのブロック・コードでがんがん叩く様子も快感だし、左手で弾くベース・リフがクセになりますね。
2曲目が一見ラテンとはなんの関係もなさそうなポップ・スタンダード「ユー・ドント・ノウ・ワット・ラヴ・イズ」で意外ですが、ここでのチューチョの解釈はこれまた完璧ラテン・ピアノ。リズム形態はいちおう8ビート・ボレーロのそれなんですけど、クールに淡々とやるんじゃなく、もっとパッショネイトに弾きまくるという、その意味でのラテンらしさを感じますね。ここでも低音部左手のベース・リフが魅力的。いやあ、ビリー・ホリデイも歌ったこのポップ・ソングがこんなに変貌するなんてねえ、みごとです。
3曲目、チューチョの自作曲「ロス・ギロス」でだけヴォーカルが入りますが、これはだれが担当しているのかわからないです。それもリード・ヴォーカルとコーラス隊とのコール&レスポンスみたいになっているんですけど。あわせ、歌が出る前の中盤ではなぜかデイヴ・ブルーベックの「トルコふうブルー・ロンド」がアフロ・キューバンにアレンジされ挿入されています。
アルバムのクライマックスは、間違いなく5曲目の「ソーラー」。マイルズ・デイヴィスが書いて演奏し、いまではスタンダード化しているジャズ・チューンですね。ここでのリズムのにぎやかさといったらアルバム中No.1でしょうね。派手なラテン・リズムでぐいぐい攻め、チューチョも華麗に弾きまくっているかと思いきや、中盤ではパッとリズムが止まりピアノ独奏になって、フランス印象派ふうにチェインジ。アート・テイタムっぽいソロ・ピアノ超絶技巧も聴けます。
しばらくそれが続くと、ふたたび後半はリズムが入りにぎやかになって、今度はドラムス&パーカッションが主役の打楽器アンサンブルを聴かせるようになります。コンガ・ソロもあり。これがあの「ソーラー」かと思うとビックリですが、キューバ人ならではの独自展開なんでしょうね。最後にやっぱりテーマをテナー・サックスが吹きますが、リズムの嵐はおさまらず。こんな「ソーラー」、ほかにないでしょう。
そしてアルバム・ラストの「オメナーヘ・ア・エリントン」は曲題どおりデューク・エリントン・トリビュートなメドレー。チャチャチャにアレンジされた「サテン・ドール」で幕開けし、続いてボレーロ・スタイルの「イン・ア・センティメンタル・ムード」。ラスト3曲目のアフロ・キューバン・リズムが爆発する「キャラヴァン」終盤では、ピアノもベースも止んで打楽器アンサンブルだけになり(このパートにはバンド全員が打楽器で参加していそう)、そのままアルバムは終了。
(written 2021.2.25)