ニュー・オーリンズ音楽入門にもってこいのアルバム
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v.a / Our New Orleans (Expanded Edition)
2021年になっていまごろようやく見つけた『アワ・ニュー・オーリンズ』(2005)というアルバム。「ア・ベネフィット・アルバム」と付記されているのでもわかるように、ニュー・オーリンズに特に甚大な被害をもたらした2005年のハリケーン・カトリーナからの復旧に向けて製作されたもの。
いま2021年となってはハリケーン被害とそこからの復旧に取り組むニュー・オーリンズの音楽家たちの心意気、みたいな意味は薄れ、シンプルに音楽作品としてだけ楽しめるかどうかということだけにフォーカスするわけですけど、当時このアルバムを知らなかったぼくの心にも響いてくる内容なんですよね。
ところで今年になってようやくこのアルバムを見つけたというのには理由があるようで、なんでも昨2020年に『アワ・ニュー・オーリンズ』はエクスパンディド・エディションで再発されたみたいなんですよね。LP二枚組になり、ボーナス・トラックみたいに五曲が追加されています。オリジナル・アルバムはランディ・ニューマンの16曲目で終わっていたみたいです。
といってもそのオリジナル・アルバムは聴いていませんし、Spotifyにもそれはないんで、比較することはできません。それでですね、この『アワ・ニュー・オーリンズ』は、現地(出身)の音楽家を大挙起用して、現地ゆかりの曲をどんどんやっているというそういった作品なんですが、それであるがゆえニュー・オーリンズ・ミュージックのエッセンスをぎゅっと詰め込んだような内容なんですよね。
ポインター・シスターズの「イエス・ウィ・キャン・キャン」をアラン・トゥーサンがやるのではじまりますが、トゥーサンはアルバム後半でもピアノ独奏でプロフェッサー・ロングヘアの「ティピティーナ」を、それも短調にアレンジして、演奏しています。でも物悲しい曲調のものって、アルバム全体でもこれだけなんじゃないですかね。
そう、悲惨なハリケーン被害に沈む心、悲嘆に暮れるひとびと、といった側面はこのアルバム全体からは聴きとれず、どこまでも前向きに、肯定的に強く生き抜こうというニュー・オーリンズの街のパワフルさがきわだつ内容になっているのは特筆すべきです。
ドクター・ジョン、ダヴェル・クロウフォード、バックウィート・ザディコ、ドクター・マイケル・ワイト、ウォーデル・ケザーグが二曲づつやっていますよね。その他、アーマ・トーマス、エディ・ボ、ワイルド・マグノリアス、ダーティ・ダズン・ブラス・バンド、プリザヴェイション・ホール・ジャズ・バンドなどなど、ニュー・オーリンズを代表する音楽家たちが勢揃い。
とりあげられている曲では、「ドゥ・ユー・ノウ・ワット・イット・ミーンズ・トゥ・ミス・ニュー・オーリンズ」が三回も出てくるのが目立ちます。プリザヴェイション・ホール・ジャズ・バンドのヴァージョンでは(だれだろう?)バンジョーの弾き語りで。ダヴェル・クロウフォードのはしっとりと歌う郷愁歌。ウォーデル・ケザーグのものはドナルド・ハリスンのサックスをフィーチャーしたインストルメンタルで、弦楽が美しい。
どの曲も、どの音楽家の演唱も、ニュー・オーリンズ・ミュージックならではの力と美と楽しさに満ち満ちていて、しかもアメリカ最大のミュージック・シティともいえるこの土地の音楽の歴史と多様性を一堂に会したようなアルバムだから、ニュー・オーリンズ音楽入門編としてもいいですよね。聴き慣れているファンは、うんうんと納得しながらくつろいで楽しめるし、なかなかの好作品と思います。
(written 2021.3.30)