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トンブクトゥ写本に思いを馳せて 〜 ファトゥマタ・ジャワラ

(3 min read)

Fatoumata Diawara / Maliba

コート・ジヴォワール生まれマリの歌手でフランス在住のファトゥマタ・ジャワラについては、日本語でもしっかり紹介されているので、ぼくがあらためて説明しておく必要はありませんね。ご存知ないかたはちょちょっと検索してみてください。

2022年の新作『Maliba』が出たことは、たしか菊太郎さんのツイートで知ったんでした。いまのところデジタル・リリースのみの模様。EP扱いですけど32分あるので、しっかりしたアルバムでしょう。

Google Arts & Cultureとのコラボで、いはゆるトンブクトゥ写本プロジェクトのためのサウンドトラックとしてオンライン提供されたのがファトゥマタのこのアルバム。「トンブクトゥ写本」とはマリ北部の都市トンブクトゥで13~17世紀ごろに作成されたさまざまな写本を包括的に指すもの。長らく個人が所蔵していましたが、20世紀に入ってからは公共施設による組織的な収集・体系化が進みました。

2012~13年のマリ北部紛争の際、イスラム過激派の手によりこうした写本群のほとんどが焼却されたと一部で報道されたんですが、紛争中ひそかに首都バマコへと搬出され、安全に保管されていたことがわかりました。

Google Arts & Cultureによるトンブクトゥ写本プロジェクトとは、世界が容易にアクセスできるように、この写本群のデジタル化を推し進めようというもの。ファトゥマタはこうしたプロジェクトのための音楽を依頼され、できあがったのが『Maliba』というわけです。

音楽としては、おだやかな質感をたたえつつ躍動的な生命力あふれるグルーヴに支えられているのもわかるのがファトゥマタらしいしなやかさ。女声のウルレーションが一瞬入ったりするものは、いはゆる砂漠のブルーズっぽい感触もあります。かと思うとグナーワみたいな微妙にずれ重なるカルカベ・アンサンブルが聴こえてトランシーになったり。

西アフリカ系の打楽器を使いながらも、むしろインターナショナルなサウンド・メイクに寄っているのも以前と同じ。なおかつ全曲を書いているファトゥマタのソングライティングには間違いなくマリ音楽だというアイデンティティ・ルーツ志向があって、今回トンブクトゥ写本のための音楽ですから、いっそうそこを自覚したはず。

ギターやエレベのサウンドもくっきりしているし(特にベースの音が浮き出ている印象)、またストリングスが全曲でやわらかなサウンドの彩りを添えているのもいいですね。主役のヴォーカルはたくましくも落ち着いたやや渋めの響きで、コーラスも多用。タイトル曲では男声ラッパーが客演しています。

(written 2022.4.13)

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