アナザー・サイド・オヴ・ジョン・コルトレイン
(7 min read)
John Coltrane / Another Side of John Coltrane
1. Tenor Madness (Sonny Rollins / Tenor Madness 1956)
2. ‘Round Midnight (Miles Davis and The Modern Jazz Giants 1956)
3. Oleo (Miles Davis / Relaxin’ 1956)
4. Airegin (Miles Davis / Cookin’ 1956)
5. Soultrane (Tadd Dameron / Mating Call 1956)
6. C.T.A. (Art Taylor / Taylor’s Wailers 1956)
7. Monk’s Mood (Thelonious Monk / Thelonious Himself 1957)
8. Epistrophy (Thelonious Monk with John Coltrane 1957)
9. Trinkle, Tinkle (Thelonious Monk with John Coltrane 1957)
10. Billie’s Bounce (Red Garland / Dig It! 1957)
11. Someday My Prince Will Come (Miles Davis 1961)
(数字は録音年)
8月20日にリリースされた『アナザー・サイド・オヴ・ジョン・コルトレイン』(2021)。独立して自分のバンドを持って活動するようになる前の、サイド・メンバー時代の音源に焦点を当てたコンピレイションで、コンコード傘下レーベル(プレスティジ、リヴァーサイドなど)音源を中心に、大手コロンビアのものも一個だけ収録されています。
となれば、あるいはそうでなくともそもそも、マイルズ・デイヴィス関係とセロニアス・モンク関係の音源が多くなるのは必然。実際全11曲中マイルズものが4曲、モンクものが3曲ということで、この二種類が大半を占めているのはいうまでもありません。
この1956〜61年までのコルトレインの成長に耳を傾けるように味わうというのがこのコンピレイションの聴きかたでしょうし、実際、成長めざましいものがあります。逆にアトランティック、インパルス時代の演奏でふだんなじんでいるファンのみなさんには新鮮に響くかも。
まずは1956年、ソニー・ロリンズと共演した「テナー・マッドネス」で幕開け。モダン・ジャズ・テナー・サックス界の二大巨人のスタイルの違いを比較できる絶好の機会とみる向きもあるようですが、トレインのほうがまだまだ未熟で、到底ロリンズとは比べものにならないなというのがぼくの正直な感想です。
この共演時、すでにトレインはマイルズ・バンドの一員でした(55年から)。それだってもともとマイルズはロリンズに入ってもらいたかったのに断られたのでやむなくトレインになっただけで、イモくさい、ドンくさいトレインの吹奏ぶりを存分に味わうことができますね。まろやかによく歌うロリンズとは好対照です。
ロリンズのことは、ある意味このコンピレイション前半部の隠しテーマみたいになっていて、マイルズ音源パートでも「オレオ」「エアジン」となぜかロリンズの曲が続きます。同じテナー・サックス奏者の書いた曲だからなのか、それともリーダーの統率ぶりがみごとだったのか、それらではトレインもそこそこ聴けるソロを吹いているのが印象的。
また、さらにもう一曲「ラウンド・ミッドナイト」が収録されているのはモンクの曲ということで、このアルバム後半のモンク音源パートの予兆のようになっているのも興味深いところ。やっぱりトレインが立派になったのはマイルズがいっときバンドを解散したのでモンクのところに参加していた57年からですよね。
実際7曲目からの三曲連続のモンク音源で聴けるトレインは、それ以前とはあきらかに違います。音色もシャープで硬質になっているし、なんといってもフレイジングが変わりました。それまでのモッサリした吹きかたを一掃、いわゆるシーツ・オヴ・サウンズと呼ばれる高速で音をびっちり敷き詰めていくスタイルが完成に近づいています。
コードや楽理、音楽全般の理解なんかもモンクからずいぶんと教わったはずで、やはり57年こそトレインにとってのターニング・ポイントだったかもしれません。特に9曲目「トリンクル・ティンクル」での目覚ましい吹きっぷりなんか、すばらしいじゃないですか。
さらにこのコンピレイションでいちばんビックリしたのは、個人的にいままで聴いたことのなかったレッド・ガーランド『ディグ・イット!』からの「ビリーズ・バウンス」です。57年の録音みたいですけど、ここでのトレインは、これ、どうしたんですか?ここまで吹きまくれるとは。まるで59年ごろ以後のスタイルがすでに完成しているじゃないですか。これホントに57年?驚愕の超絶吹奏ぶりです。
ここまで来ればですね、もはやなにも言うことはない、ぼくらみんなが知っているあのトレインがここにいるということで、サイド・メンバーとしてマイルズやモンクのもとで修行し、みずから研鑽を重ねた結果、こんな高みに到達してしまったわけです。55年のマイルズがここまで見抜いていたとしたら名伯楽でしたが、どうでしょうか。
ラスト11曲目「サムデイ・マイ・プリンス・ウィル・カム」は61年3月のセッションということで、もうすでにトレインは独立し自分のバンドで活動していた時期のゲスト参加です。これと、さらに同じアルバムに収録されている「テオ」が、サイド・メンバーとしてのトレイン生涯ラスト演奏になったので、このコンピレイションに選ばれたのでしょうね。
「サムデイ・マイ・プリンス・ウィル・カム」では、当時のマイルズ・バンド・レギュラーだったハンク・モブリーもソロを吹いていて、トレインとの大きな差を聴くことができます。モブリーは決して悪いわけじゃないんですよ、ハード・バップ・テナーとしては標準的といったあたりですが、トレインがあまりにもかっ飛びすぎているだけで。モブリーには残酷ですけど。
最後に。マイルズ・バンドでのトレインのサイドでのかっ飛びぶりを聴くならば、脱退直前、60年初春のヨーロッパ・ツアー音源もぜひ聴き逃さないでいただきたいと思います。2018年に『ザ・ファイナル・ツアー』というボックスになってレガシーから公式発売されました。トレインの狂気がたっぷり詰め込まれています。
(written 2021.8.23)
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