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音楽でやるセクシャル・ハラスメント 〜 ホット・リップス・ペイジ

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Hot Lips Page Selection

ホット・リップス・ペイジについては以前書いたことがあります。その記事タイトルも「猥褻ジャズ・トランペッター」。

かなりえげつないサウンドの持ち主で、トランペットをスケベな感じでいやらしくグロウルさせたらリップス・ペイジ以上のジャズ・ミュージシャンはいなかっただろうといえるほどの、いはば音楽でセクハラをやっているみたいなもん。

カウント・ベイシー楽団にも在籍経験があるリップス・ペイジ、自身のバンド名義録音は、御多分に洩れず権利を持つアメリカ合衆国の会社が公式リイシューなどするわけないので、CDではぼくも仏クラシックスの年代順全集で楽しんでいました。しかし『1938 - 1940』と『1940 - 1944』の二枚しか持っていなかったんです。

サブスクだと、仏クラシックスがCDリイシューしていた古い時代のジャズ音源は「Complete Jazz Series」というものでやはりクロノロジカルに聴けるようになっています。以前Astralさんも言っていましたが、どういう関係なんでしょうねえ。

ともあれこれでCD時代は買い逃し入手困難になり地団駄ふんでハンカチをかみちぎるしかなかったものも、問題なくぜんぶ聴けるっていうわけで、ありがたやありがたや。サブスクに “ソールド・アウト” なんてないので。ときどき消えるけれども〜。

最高にスケベな「Gee Baby, Ain’t I Good To You」で終わる1944年録音分までしかCDでは持っていなかったんですから、それ以後のものは今回はじめて聴いたことになります。Spotifyには1953年のものまで年代順にありました(リップス・ペイジは54年没)。トータルで個人的におもしろいなと感じるものを選び出しプレイリストにしておいたのがいちばん上のリンクです。

トランペットにプランジャー・ミュートをつけて吹き、わうわうぐわぐわ〜っていう感じのジャングルなサウンドにしてねちっこく攻めるのがリップス・ペイジの持ち味。この手の音色はデューク・エリントン楽団のブラス・セクションも得意としましたが、欧州公演では客席から思わず笑い声があがったというエピソードすらあったくらい。

紳士淑女だったら顔を紅潮させながら眉をひそめ、「このようなもの、公衆の面前ではまかりなりません」などと、あるいは日本のPTAだって怒りだしそうな、そういった音楽をやったジャズ界の代表格がリップス・ペイジですよ。

ジャズ界といっても、そもそもこういった芸能エンタメ系の猥雑ジャズはある時期以後ファンもクリティックやジャーナリズムも完全に相手にしなくなったというのが事実。いや、はじめから「わき道」だったかもしれませんが、ジャズ王道からハミ出し忘れ去られていたこういう音楽を発掘・再評価したのはブルーズ/ロック系のリスナーや批評家。日本では中村とうようさん。

21世紀的な価値観からしたら消滅やむなしかもしれない一種のセクハラ音楽かも?とすら思えるリップス・ペイジの録音ですが、いまでも聴けば楽しいと思えるのはやっぱりぼくもオヤジだから?現代的意味とか新しさみたいなものなんてもちろんちっともありません。ただおもしろいから聴くだけなんで、ブルーズ系の猥雑エンタメ・ジャズでいっときの快楽を味わうっていう、それだけ。

リップス・ペイジの音源は、最初ただスケベな感じでグロウルしていただけのジャズだったのが、1940年代なかば以後は(時代にあわせるように)ジャンプ・ミュージックのフィーリングをみせるようになったいたのも興味深いところです。たとえば1947年の「セイント・ジェイムズ・インファーマリー」。

この曲はサッチモ(ルイ・アームストロング)やキャブ・キャロウェイもやったエンタメ・ジャズの定番ナンバーですが、ここでのリップス・ペイジ・ヴァージョンでは跳ねる8ビートふうのジャンピーなリズム感に注目してほしいと思います。プランジャー・ミュートを使わずオープン・ホーンで吹いていますが、使ったら似合ったかもしれませんよね。ジャンプ・ミュージックで破天荒なテナー・ブロウが流行ったように。

1950年代録音になれば、そういったフィーリングはいっそう強化されていて、これはもうほぼリズム&ブルーズでしょう。ダイナ・ワシントンふうの女声ヴォーカリストも参加するようになって、リップス・ペイジと掛けあいで歌うのも楽しい。52年の「アイ・ボンゴ・ユー」みたいなラテン・ナンバーも最高。

プレイリストの最後には「セイント・ジェイムズ・インファーマリー」の1953年再演を入れておきました。ライヴ録音っぽいですね。ここではプランジャー・ミュートでのグロウルをいやらしく使い、47年ヴァージョンと比較してもより猥雑さが増しているのがナイス。

(written 2022.4.11)

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