なんてチャーミングなんだ、リンダ・ルイス
(6 min read)
Linda Lewis / Lark
いままでにぼくが聴いてきたどんな音楽にも似ていないリンダ・ルイスのアルバム『ラーク』(1972)。なんでも日本では翌73年に中村とうようさんが絶賛したそうで、たぶんそれもあって日本では知られているんですよね。フリー・ソウル・ムーヴメントで90年代に再発見されるということもあったそう。ぼくはといえば、なにを隠そう、ついこないだちょっとしたきっかけがあるまで、まぁ〜ったく名前すらも知らないままで来ていました。Spotifyでふと聴いてみて、アルバム1曲目の「Spring Song」で一目(一聴)惚れ。
なんてかわいくてチャーミングな声なんでしょうか。ノリも極上のグルーヴ。リンダ・ルイスの『ラーク』は名盤とされていて、ずっと続く日本での人気を反映してネットで検索すれば日本語の記事もたくさん見つかるので、くわしいことをぼくが記しておく必要はないはず。英国の黒人シンガー・ソングライターで、音楽的に分類するのはちょっとむずかしそう。世間ではソウル・シンガーにくくられていますけど、聴いた感じ、もっとこう、フォーキーっていうかポップっていうか、ジョニ・ミッチェルとかキャロル・キングとかローラ・ニーロなんかに近い感触があるなと思います。
アルバム『ラーク』では伴奏楽器が必要最小限なのも好印象で、リンダのチャーミングなヴォーカルをきわだたせる結果になっていますよね。1曲目「スプリング・ソング」でも自身の弾くアクースティック・ギターのほかには打楽器(コンガ)だけ。それが実にいい雰囲気なんですよね。リンダは声もいいけど、ギターもうまいですね。これをソウルと呼ぶのか、あるいはフォーキー・ソウルなのか、とにかくジャンルはどうでもいいから、このヴォーカルとミニマム・サウンドのチャーミングな魅力にやられてしまいます。
2曲目「リーチ・フォー・ザ・トゥルース」は後半パッとリズムと曲調が変化して、ゴスペルふうにもりあがっていくのも楽しいですね。アルバム全体で、もうなんといっても歌手のこのかわいらしい声の魅力のトリコになってしまうんですが、曲はいろんなタイプのものが収録されていて、ソングライターとしてもなかなかの存在だったとわかります。
フォーク・ロック・バラードみたいな4曲目「フィーリング・フィーリング」はじっくり聴かせる雰囲気で、途中からエレキ・ギターやドラムスも入ってきますけど、あくまでサウンドの軸はリンダの弾くアクースティック・ギターのカッティング。それと、アルバム全体でコンガの音色がいい味を添えているというのも大きなポイントでしょう。1972年ですから米英ポピュラー・ミュージックにおけるコンガの活用は一般的でしたけど。
アルバム題になっている6曲目の「ラーク」は、アクースティック・ギターではなくピアノ伴奏で歌われる、この作品のサウンド・テイストからしたらやや異色な一曲。これ(と10「ビーン・マイ・ベスト」)がいちばんローラ・ニーロっぽい雰囲気をただよわせていますが、あまりグルーヴィな曲じゃないので、個人的にはイマイチかも。バック・コーラスはリンダの多重録音っぽい声質で、ピアノ以外にはフィンガー・スナップだけというサウンド・メイクはおもしろいアイデアですね。
こういったものよりも、個人的には7曲目「オールド・スモーキー」のシティ・ポップっぽい軽妙な雰囲気とか、8曲目「グラッドリー・ギヴ・ユー・マイ・ハンド」と11「ウォーターベイビー」のファンキーな強いグルーヴが大のお気に入り。特に「ウォーターベイビー」ですね、本当にノレるソウル・ナンバーで、マジですんごくいいですね。エレキ・ギター・カッティング、エレピ、ベース、コンガ(ドラムスも控えめに聴こえるけれど、なんといってもコンガがいい)でつくるサウンド・テクスチャーもファンキーです。うん、こりゃあいいなあ。
続くアルバム・ラストの12「リトル・インディアンズ」だけはどうやらライヴ収録みたいで、リンダはギロを刻みながら歌い、伴奏はそれとコンガだけ。そのせいなのかワールド・ミュージック的と言われることもあるみたいですけど、それは感じないですね。でも主役のかわいい声(&ギター・カッティング)とコンガをはじめとする打楽器とで形成するこのアルバムのサウンド・カラー志向を象徴しているような一曲で、楽しいです。歌が終わり拍手が消えかかったころにひばりの鳴き声が重ねられているのも一興です。
(written 2020.8.19)