デジャ・ヴなブリコラージュでグルーヴする台湾産ネオ・ソウルの最高傑作 〜 レイチン
L8ching / Dive & Give
bunboniさんに教わりました。感謝ですね〜。
台湾の音楽家、レイチン(雷撃、L8ching)のリーダー・デビュー作『Dive & Give』(2021)がメロウでソフトで、とってもいいです。ジャジーでもあるし、都会的に洗練されていて、これはもはや退廃に近いスウィートさ。
ぼくが強く惹かれるのはこのひとの編集感覚。といっても録音後にやっているんじゃなくて、演奏時のひとづつきのものだと思うんですけど、さまざまに異なる音楽要素をブリコラージュでちりばめて、寄せ集められたパーツじたいは既視感満載でありながら、これにこれが接合するのか!という驚きは間違いなくDJ的で21世紀の感覚です。
作曲編曲段階からそうしたアイデアが活かされていて、演奏時はジャズの生演奏みたいに一回性でやっているんだと思うんですよね。なかでも4曲目「巫女」。これこそ本作の白眉だとぼくは思います。ここではメロウR&B、サンバ・ビート、プリミティヴなチャント(on クラブ・ビート)、ラテン・ボレーロの四つが次々出てきます。
基本はメロウR&Bとサンバがトグルで切り替わるんですが、後半突然先住民プリミティヴ・チャント(ロビー・ロバートスンが1998年作でやったようなやつ)が挿入され、すると一転して今度はラテン・ボレーロに変貌するんですね。こんなの聴いたことないよ。
まるでかつてのラテン・プレイボーイズみたいですが、しかしレイチンのおもしろさはこんだけの異種混淆をやってゴタ混ぜ感がいっさいなく、グルーヴが一貫していること。はじめからそう作曲された一回性の演奏だからなのか、多要素をつぎはぎしているということを感じさせず、よどみない川のようなナチュラルでスムースな流れがありますよね。
そんな「巫女」のあとも、5、6曲目あたりは完璧にぼく好みの音楽。そっとささやくようにやわらかく歌うレイチンのヴォーカルもこうした曲想にはぴったり。やや日本の歌謡曲っぽいフィールもあるなとぼくは感じますが、ルーツをたどればそれだってもらったものです。
しゃべり声、こどもの泣く声、日常の生活音など、さまざまにサンプリングされて各所にちりばめられているのも音楽の臨場感と雰囲気を高める大きな要素となっていますが、そうした音は不思議にリアリティというよりファンタジーを感じさせる結果になっているのも楽しい。
10、12曲目なんかのさわやかな曲想も大好きで、ビートはかなり強めに効いているのにしつこい感じはなく、あっさり淡白っていうか落ち着いたおだやかな感触があるのは、やはりこのひとも近年のグローバル・ポップスのトレンドに乗っているんでしょう。各パーツはレトロ感覚が基調になっているし。台湾から出現した最高の才能じゃないでしょうか。
去年の作品ですが、2022年のベスト・アルバムに選びたいと思うくらいです。
(2022.9.18)