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音楽家は音で勝負だ 〜 パトリシア・ブレナン
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YouTubeでパトリシア・ブレナンのヴァイブラフォン(やマリンバ)演奏シーンを観ていると強く印象付けられることがあります。演奏内容は発売されているアルバム『Maquishti』録音の際のセッションそのままが多いんで新味はないですが、もっと違う部分、つまりパトリシアのルックスが印象に残るなということなんです。
きれいだとか美人だとかきらびやかだとかいう意味ではありません。まったくその逆で、パトリシアは外見をいっさい飾らない演奏家なんですよね。髪型もテキトーだし、フェイス・メイクなし、アクセサリー類はまったく着けず、服装だってシンプルな素っ気ないものです。
しかしそんな姿で奏でられるヴァイブラフォン・サウンドはこの上なく美しいんですよねえ。これはあれです、「音楽家は音で勝負だ」という透徹した姿勢の表れなんじゃないかとぼくは解釈していて、だからこそいっそうの好感を抱くんですよね。いさぎよいというか、ルッキズムを徹底排除したところに自身の音楽があるという覚悟でしょう。
性別問わず歌手や演奏家も、ライヴ・ステージなどで、あるいは動画撮影などする際も、ある程度はルックスを気にするもんじゃないでしょうか。顔のつくりじたいは変えようがないけどメイクでけっこう化けられるし、髪型や服装など気を遣って、それで見た目の印象がよくなるように配慮していると思います、ほぼ全員。
ところがパトリシアにはそういった部分がまったくなく。もちろんまだライヴ・ステージにナマで接したことはないんですけれども、YouTubeにもライヴ・シーンがちょっとだけ上がっているし、スタジオ・セッションの際の演奏シーンでも、こんだけまったく外見を飾らない演奏家って、かなりまれなのではないでしょうかねえ。
それゆえに、ちょっと人気が出にくいという面もあるかもしれません。ましてや女性ですしね。まだまだ世界ではルッキズムがある程度、いや、かなり、幅を利かせているというか、特に女性歌手、演奏家に対してはですね、かわいかったり美人がいいだとかきれいな衣装を着るべきだとか、さまざまに言われるじゃないですか。
しかしですね、真の勝負要素は演奏内容、音です。歌手なら声。それこそが音楽家の「命」ですよ、どんなサウンドを出せるかが。パトリシアはそこにこそ全力を傾注しているように、YouTube動画を観ていると感じるんです。音楽家として、徹底して音にだけ真摯に向き合おうっていう、そういう姿勢が鮮明に読みとれて、ぼくなんかは強い好印象を持ちますね。
もともとSpotifyで(CDやレコードはまだ買っていない)でできあがった音楽だけ聴いていたころから大ファンでしたけど、YouTubeで動画をいくつも観るようになってからは、こんな理由でもっとさらにファンになりました。音楽家はルックスじゃない、あくまで音で、音だけで、勝負するもんなんだという、そういうパトリシア・ブレナンの真面目な態度や信念が全開になっているように思えます。いいことですよねえ。
(written 2021.5.9)