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デリケートな短編小説集のように 〜 ペク・イェリン

(3 min read)

Yerin Baek / Every letter I sent you.

bunboniさんに教わりました。感謝しかありませんね〜。

韓国人歌手、ペク・イェリンの『Every letter I sent you.』(2019)がきれいで繊細で遠慮がちで孤独で、ほんと、いいです。ささやかにひそやかにそっと歌うラヴ・ソングの数々がじんわり沁みてきて、韓国語だったらちょっと違ったかもですが、本作はほぼ英語なので(それも音楽のカラーを決めているでしょう)。

といってもぼくは歌詞の内容は気にしておらず、響きだけ受けとって、このふんわり空気のように漂うサウンドの上に軽く乗ってそっとつぶやくように控えめに歌うイェリンの声がいいなって、そう感じているんです。終盤の一曲を除き全編ずっと抑制が効いたクールなヴォーカルで、トラック・メイクもそうだし、そういったところがお気に入り。

基本的に近年のアンビエントR&Bを基調にしたサウンドなんですが、曲によっては80〜90年代的なアシッド・ジャズっぽいムードもただよっているようにぼくは感じます。そしてゆっくり流れゆく雲のように静かでおだやかな音楽だっていうのは、このところのぼくの急所をくすぐるもの。これですよこれ、こういうR&Bが聴きたかったんです。

それを韓国人歌手が実現してくれたっていう、それがうれしいですね。むろん日本にもいまこういった音楽はたくさんあって、たんにぼくがうといだけということなんですけども。ヴォーカルもサウンドも聴くたびに表情を変える多貌性みたいなものも持っていて、深みのある音楽です。

一つ、8曲目の「Bunny」だけはノリいいグルーヴィなクラブ系ダンス・ナンバーで、イェリンはそれでも抑えて歌っていますが、そのなかに一種の陽光がさしたような明るい雰囲気も感じられ、ある種のテンションが支配しているアルバムだけに、ここではなんだかほっと一息ついて安心できるようなリラックス・ムードがあります。

一曲一曲はアルバムのなかでさほど密な結合をしておらず、まるで趣向の異なる短編小説をならべたみたいになっているのも個人的にはとてもいい。この内容だったら実はこの半分の35分程度にまとめられたかもと思いますが、インディ作品だからやりたいようにやっているんでしょうね。

(written 2022.9.6)

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