ステファン・フィールで 〜 エリア・バスチーダ
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Èlia Bastida / Tribute to Stéphane Grappelli
エリア・バスチーダは1995年バルセロナ生まれ、岩佐美咲や中澤卓也と同い年で、いはゆるZ世代の一員です。四歳からヴァイオリンをはじめてクラシック音楽の修練を積み、17歳でジャズ・バンドに加入したそう。
公式ホーム・ページによれば主な影響源はチェット・ベイカー、スコット・ハミルトン、アート・ペッパー、デクスター・ゴードン、ソニー・スティット、ステファン・グラッペリ、サラ・ヴォーン、レスター・ヤング、エリス・レジーナ、ジョアン・ジルベルト、シコ・ブアルキ、フレディ・ハバード、クリフォード・ブラウン、ビル・エヴァンズ、エラ・フィッツジェラルドなど。
2017年以後すでにいくつもアルバムを出してきているようですが、最新作『Tribute to Stéphane Grappelli』(2022)は題名どおり偉大な影響源にささげた内容。いいですねこういうの。基本ギター&ベースとのトリオ編成で、曲によりドラムスも参加しています。
MJQの「ジャンゴ」だってやっているし(それも二回)、ってことはつまりフランス・ホット・クラブ五重奏団がやったようなああいった音楽を指向しているのかなと思うとすこし違って、トラディショナルなストレート・ジャズをベースにクラシカルな方向性に寄った内容を展開しています。
地金がクラシック・ヴァイオリンなんだろうという気がしますが、それでもステファン・グラッペリへの敬意は音色とフレイジングのはしばしに表現されているのがわかって好印象。常に気品高く、決して俗な感じにならない音楽家ですね。
おだやかに落ち着いた平坦な音楽で、こういう雰囲気はレトロ&オーガニックな路線が支持されるようになって以後分野を問わず拡大しているものです。劇的で大げさなところのとれたなだらかな老境に入りつつある現在のぼくの心境にはピッタリ。
ジャズとクラシックだけでなくブラジル音楽好きを本人は公言していますが、本アルバムを聴くかぎりではブラジルっていうよりカリブ方面へのアプローチが濃く出ているような感じです。それは意識してというよりスペイン人だから自然とラテン性がにじむということかもしれません。
特にカリビアンなラテン・ジャズ(・クラシック)っぽさが鮮明なのが4、5、8、13曲目あたり。ヴァイオリン・スタイルはどこまでも典雅ですが、リズムにはっきりした愉快さ楽しさがあります。ボレーロ(だけどアバネーラっぽい)、スウィング、カリビアン・ダンス、ファンクなど。
なかでも8「ダンス・フォー・ステファン」のリズムとか13「グラッペリア」のファンクネスなんてすばらしいですよ。どっちもステファン・グラッペリの名前が曲題に入っているわけですから、ことさトリビュートを意識して書いた自作なんでしょう。現代的な相貌をとったグラッペリ・ミュージックとも解釈できます。
いっぽうでJ・S・バッハの曲にジャジーなビートを付与して演奏したり(3)、また9「ネイチャー・ボーイ」なんて有名ポップ・ナンバーがクラシカルなヴァイオリン独奏曲みたいになっていたりするのも、エリアの一面でしょう。ヴォーカルを披露する曲もあります。サックスもやるそうですが本作では聴けず。
(written 2022.12.22)