ルーフトップ・コンサート完全版は配信ライヴみたいなもん 〜 ビートルズ
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The Beatles / Get Back (The Rooftop Performance)
2022年1月28日リリースのお楽しみ音楽アルバムが四つ、前からの告知どおりちゃんと出ました。
ビートルズのドキュメンタリー『ゲット・バック』からいはゆるルーフトップ・コンサート部だけ抜き出し、公式に単独アルバムとしたもの。
昨年いちばんの映画だった『サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放送されなかった時)』のオフィシャル・サウンドトラック。
現在の若手ジャズ・アルト・サックス No.1、イマニュエル・ウィルキンス期待の新作アルバム『The 7th Hand』。
ベイルートの初期&未発表曲集『Artifacts』。
どれも楽しかったのでくりかえし聴いていますが、一つづつ順番に感想を書いておきましょうね。きょうはビートルズの『ゲット・バック(ザ・ルーフトップ・パフォーマンス)』(2022)。
これがもとは昨年11月末来ディズニー+で配信されているドキュメンタリー『ゲット・バック』パート3の終盤部にしてクライマックスだったことは、以前書きました。ルーフトップ・コンサートだけ単独でアルバム発売すればいいのにねとも言いました。
やはりファンの多くも同感なのか、ビートルズ公式サイドも認識しているということか、リクエストが多かったらしいせいか、一連のゲット・バック・セッションのラストを飾る1969//1/30のルーフトップ・コンサート部だけ、IMAXで映画上映されることになりました。といってもアメリカでの話で。いいなぁいいなぁ。
それにタイミングをあわせてということだとみえますが、ルーフトップ・コンサートの音声だけ、アルバムとして全世界で配信リリースされたんです。これ、CDでも発売されたらいいのにねえ。レコードにしたってサイズ的には余裕ありすぎるくらいだし、ビートルズ・ファンは円盤で聴きたい層が中心なように思いますから。
いずれにせよ、音だけになったから様子がよくわかる『ザ・ルーフトップ・パフォーマンス』、もちろんこれはライヴ・アルバムです。ゲット・バック・プロジェクトとは新曲でライヴをやりテレビ放送とライヴ・アルバムを作成することが目的ではじまったものでしたから、53年を越えそれが実現したのだと言えますね。
演奏者と聴衆がたがいに姿が見えないという、なんというか野外セミ・パブリック環境みたいなライヴであるのは、1969年時点ではかなり特異なものでしたが、いまや2020年初春来のコロナ禍で無観客配信ライヴとかがさかんに行われているという、そんな時代に公開されたコンサート・ミュージックであることを考えれば、なかなか興味深い一面があるなと感じます。
リリース形態もサブスクという配信で、なんですが、そもそもルーフトップ・コンサートは当時から配信ライヴみたいなもんだった、とも言えることになるわけで、もちろんそんなこと、こんなに感染症が大爆発するのも、こんなにインターネットとデジタル・ディバイスが普及しているのも、当時のビートルズとしては予期すらしなかったことですけど。
サウンドは、昨年ディズニー+で(ルーフトップ・コンサート部だけ)なんどもなんどもくりかえし視聴していたのと違うように聴こえます。音質面でかなり向上しているだけでなく、各楽器間の音量バランスや、それとヴォーカル&曲間の会話の出し入れまで、だいぶクッキリしたように感じます。特にベースやベース・ドラムの低音が太くなりました。
今回単独アルバムでリリースするにあたって、ジャイルズ・マーティンらがしっかりしたリミックス&リマスター作業を行ったのだろうと推測できますね。おかげで一個の音楽アルバム商品として完成度が高まった、というかルーフトップ・コンサートがフルで単独発売されたのは今回が初ですが。
主にジャズやロックの世界で、アーカイヴものがエンタメ完成商品として成立するようになったという事情も見逃せません。特に1960〜70年代のクラシック・ロックはそうですよね。『ザ・ルーフトップ・パフォーマンス』も別テイクが多く、それをはがして、ジャムも外し、いちばんいいテイクだけにしぼったらたったの五曲しかありませんから。
それでもたったの五曲とはいえ、出来のいいものはマジで聴きごたえ充分で、生演奏ライヴでのビートルズの実力を思い知ります。これ、どうして昨年発売の『レット・イット・ビー』50周年記念ボックスにふくめなかったのでしょうか、そこが謎だと思えるほど。どのみち多数枚組の巨大ボックスなんですから、たった40分弱のルーフトップ・コンサート完全版を一枚追加しても大差なかったのでは?
(written 2022.1.29)