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しんどいとき助けになる音楽(5)〜 坂本冬美『ENKA』シリーズ

(4 min read)

坂本冬美 / ベリー・ベスト of ENKA シリーズ

きのう8/20はほんとうにしんどくて、足尻腰の痛みがあまりにもひどすぎて、これ自分だいじょうぶなのか?と、きょうが61年の人生でいちばんつらい日だよなあと、マジで心配というか強い不安におちいるほどでしたが、これホンマどないなるのでしょうね。

さて

従来的な古典演歌スタンダードばかりとりあげて、そうした曲々が本来持っていた濃厚で劇的な表現スタイルは消し、現代のあっさりさっぱり感に満ちた薄味フィーリングに仕立て上げた坂本冬美の『ENKA』シリーズ三作(2016、17、18)に、心底ベタ惚れ。

こういうのこそ新世代演歌だと、正統派ベテラン歌手がそれを達成したと言いたいみごとな結実をみせているんですが、最大のキー・パースンは冬美というよりシリーズのメイン・アレンジャーをつとめサウンド・メイクをした坂本昌之です。坂本は徳永英明の『VOCALIST』シリーズ(2005〜15)で評価を確立したので、演歌もやってみないか?と起用されたのでしょう。

イントロを聴いてもなんの曲がはじまったのかわからないアレンジで、きわめて新鮮。「大阪しぐれ」が「越冬つばめ」が「雨の慕情」が「おもいで酒」が「圭子の夢は夜ひらく」が「港町ブルース」が、こんなふうに(キューバのフィーリンみたいな)軽くてやわらかいふわっとした歌になるんだ!というオドロキにあふれていますよね。

坂本アレンジの特徴をちょっと列挙してみましょう。

・ひたすらおだやか
・淡く薄味
・シルクのような肌心地
・細かな部分まで神経の行きとどいたデリカシー
・必然最小数の音だけ、ムダのない痩身サウンド

・アクースティック生演奏のオーガニック・サウンド
・自身の弾くピアノが軸
・リズム・セクション中心で、管弦は控えめ

・リズム楽器(ドラムス、ベース、ギター、鍵盤)をセットでかたまりとして動かす
・(特にギターが)ショート・リフを反復する

・ラテン・シンコペイションを軽く効かせ
・フルート・アンサンブルの多用
・その他木管を使い、ブラスはほぼなし
・エレベとコントラバスを適宜使い分け

・原田知世をプロデュースするときの伊藤ゴローとの類似性

こういったあたりがぼくの気がつくポイントですが、徹底的に「脱演歌」のサウンド・メイクがほどこされていて、旧来的な演歌の世界にイマイチなじめない洋楽ファン層にもアピールできうる世界を実現できているんじゃないでしょうか。

冬美のヴォーカルも、こうしたサウンドにあわせるように濃厚なコブシ系の歌いまわしをやめ、あっさりしたストレート発声にしているのが、聴いているとよくわかります。もともとこういう歌手ではありませんでしたが、本シリーズではひょっとしたら坂本からヴォーカル・アドバイスまであったのかもしれませんね。

シリーズはじっさい高く評価され、メディアでもちょっとは注目され記事になったりもしていました当時。冬美のこんな方向性は一過性のものだったかもしれないんですが、いはゆる第七世代の若手新演歌が台頭しつつある現況にベテランなりの回答を出したものだったと言えるはずです。

むろん演歌界のメインストリームは変わるはずもなく、従来型のスタイルを2023年でもそのまま維持してはいますが、工夫次第で従来演歌ナンバーでもこういう世界を構築できるんだと示した先例として著しく高く評価したいとぼくは考えています。

(written 2023.8.21)

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