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ダウナーなレトロ・ジャズ 〜 リッキー・リー・ジョーンズ

(3 min read)

Rickie Lee Jones / Pieces of Treasure

レトロばやりってことで、なんとリッキー・リー・ジョーンズまでもやってしまった最新作『Pieces of Treasure』(2023)というジャズ・アルバム。ティン・パン・アリーのグレイト・アメリカン・ソングブックを歌ったもので、本人というよりプロデューサーのラス・タイトルマンがアプローチして実現したとのこと。

それにしても、四月末にリリースされていて速攻で聴いたにもかかわらず、書くのがずいぶん遅れてしまったのは、どうも本作で聴けるリッキー・リーのヴォーカルがですね、う〜んどうも、イマイチ好みじゃないっていうか、なんだかダラダラしていてしまりがなく、だらしないと思ったからなんです。

ひょっとして前からこんな歌手だっけ?と思ってデビュー期から聴きなおしてみてもやはりこうではなく、だから本作ふくめ近年の傾向ってことなんですね。う〜ん。ともあれリッキー・リーはこうしてスタンダードを歌ったりジャジーなアプローチをみせることも従前からときどきありはしました。

そこへもってきて、ここのところのレトロ・ブーム(をラスは意識したはず)と、さらにリッキー・リー自身もだいぶ年老いてきたっていう、なにか心境の変化みたいなのがあったのか、それでこのアルバムの制作に至ったのではないかというのがぼくの推測です。

上で書いた「ダラダラしていてしまりがな」い歌いかたっていうのも、最初ぼくはこんなんじゃあちょっとね…と思いましたけど、老齢者ならではの黄昏のメンタリティというか、人生の終盤にさしかかってのダウナーな気持ちのストレートな反映と考えれば、これはこれで一つの立派なリアリティだよなあと。

考えてみればここでカヴァーされているスタンダードの数々がつくる世界観とはいままでずっとゴージャスで華やかだったもの。ほとんどどんな歌手、アレンジャー、演奏家がやったものでもそうでありました。リッキー・リーの本作はそういう世界に対するある種のアンチ・テーゼになっているともいえます。

それはかつて1970年代末にデビューしたころの自分自身からの変貌であり、老境ならではの低く暗いムードの音楽。ぼく自身(にぎやかなものより)落ち着いた音楽を好むようになってきているのもやはり初老の入り口に来たからでしょうけど、そういうときにリッキー・リーのこのスタンダード曲集は内面に寄り添ってくれる深みというか吸引力を持っているのかもしれませんよね。わからないけど。

(written 2023.6.18)

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