第2回カンゲキ大賞に選考委員として参加しました
小劇場演劇ファンによる、過去1年の演劇作品の中で最もおもしろかったと思う作品を選出する「カンゲキ大賞」にて、選考委員をお引き受けしてまして、本日都内の貸し会議場にて開催された最終選考会に参加してきました。
https://kangeki-award.com/2nd-2023
一次選考を通過した12作品が選考対象のため、いずれもレベルの高い作品群の中から1作品だけを選ぶわけで、どうしても選考委員の趣味嗜好が多分に反映された選考になってしまうのですが、多くの小劇場演劇ファンに納得していただける結果になったかと思います。
事前準備、つまり動画で10本以上の演劇を観て感想をまとめておく、は正直キツかった、、。でも、普段観に行かないタイプの舞台も含めて様々な舞台に触れる貴重な機会でした。また、選考委員会における議論も非常に刺激的で、自分が持たない多様な視点を学ばさせていただきました。疲れたけれど、楽しかった。
ノミネートされた劇団さんの宣伝に、僅かでも貢献できる可能性もあるため、事前準備で作成したメモ書きを以下に貼り付けます。ネタバレ含みまくりですのでご注意ください。
■■■ストスパ「エゴイズムでつくる本当の弟」
・主人公の葛藤を2人1役で表現する工夫、最初は少し混乱したけれど、人の心理ってそういう二面性があったりするよねって思える上手い方法だと感じた。
・二人の全くタイプが異なる父親、どちらも駄目な人たち、でもどちらも悪い人では無さそう。
・継父の浮気がバレたときの母とのかけあい、お腹いっぱい笑わせてもらった。こういう小ネタは演劇ならではの楽しみ。
・複雑な家族かもしれないけれど、皆それぞれ優しくて、悩みはあっても、皆どうにか生きていて、ほっこりと優しい気分になれた。
・引きこもりの弟の「これそんな綺麗な話ではなかったよね?」ってセリフ、そう、確かに現実は複層的だと思う。
■■■遅咲会「ソウル・ザ・ペアレンツ」
・人格が入れ替わってしまうって既視感のあるネタではあるが、スピード感のある演出とシナリオ、そして役者さんの見事な個人芸とチームプレイに魅了された。
・映像で観ても大変楽しめた。
・最後に壁の額がずれる演出、気が利いていた。
■■■コンプソンズ「愛について語るときは静かにしてくれ」
・散りばめられている膨大なサブカルネタ、とても回収しきれない、たぶん半分も理解してない(笑)
・サキュバス、本当に話の展開に意味を与えない(笑)。でも、何というか舞台のリズムを変えてくれて、あれはあれで面白い。とりあえず賑やかになるし。
・バーチャルな世界での「ゲーム」が、実世界で人を殺すって設定、今後生じうる状況だよなぁ。この舞台のようなディストピア的な世界が実現してしまったとしても、我々の日常生活は、今と同じ空気感で回っていくのかもと思った。東日本大震災やコロナ禍を経た後では、特に。
■■■pa-pi-produce「SUMMER FREESIA EXPRESSION」
・嵐がやってくる夜の学校。翌朝は朝焼け。「台風クラブ」(相米慎二監督による1985年制作の映画)みたいな舞台設定に胸熱。
・登場人物12人の全員がキャラ立ちしているのが素晴らしい。
・懐かしさを軸に様々な人生が交錯する話かなぁと思いきや、まさかの展開に目が離せなくなった
・オニギリのしつこいオタクネタ面白すぎ。演劇ならではの小ネタ。
・カーテンコールのご挨拶も清々しく、幸せな気分になれた
・後半、タタミちゃんに何があったのか分かりにくかった。てか、分からなかった。
■■■劇団アレン座プロデュース「良い人間の教科書」
・登場人物5人それぞれの長いセリフと、直後に続くキレキレダンス。
・とことん自分をさらけだしたり、思い切り他人に踏み込んだりする会話って、ここで設定したような極限状況でもないと、ありえないよなぁ。
・最後の「君たちのこと好きになった」というセリフ、僕もそうです。特に社会に出てからは、本音で人とぶつかり合える機会なんて滅多にないってのも、人間関係を希薄にしている一因なんだろうな、と思った。
・良い人間って何だろう。与えられた条件で、日々一生懸命過ごしていればそれで十分だろう。てか、他に何が出来るの?というのが伝えたかったメッセージと受け取った。
■■■SHEROES「その吸血鬼は死を願うあるいは幸せを」
・リサさんの悲しみ、リンコさんとオガサワラさんの切ない関係、イザナ(死神)と吸血鬼一家とのライバル意識、いろんな要素が織り込まれていて、お得感あり。
・売れっ子パティシエのナガセさん、そのクズ男ぶり実に見事。本当にいそうだよねぇ、こういう男。それに引っかかってしまうアイちゃんも、ありがちなキャラでリアリティを感じた。ナガセさんに引っかからなかったら、ホス狂いとかになってそう。
・ヴァンパイアハンター(額に十字を付けた白装束の男)の怪演、警官との掛け合い、いつまでも頭に残って消えない(笑)
■■■やみ・あがりシアター「濫吹」■
・そうそうPTAとか自治会活動って、参加者ごとの温度差が大きいよね、とまさに自分が地域で巻き込まれている状況と重なって、リアルさを感じた。
・不審者扱いされて、実際に危ない人だったサイトウさん、最後に幸せになれたのかな。というか、なぜ最後の方で態度が豹変したのかよく分からない。
・そうか、コストコのヘビーユーザーってこういう扱いか(笑)
・古代中国と現代日本でそれぞれ生じる物語の二重構造が、噛み合っていなかった気がする。必然性が分からなかった。楽器を演奏出来ない男が、楽団に紛れることで職を続けることが出来た状況が破綻する、、ってサイトウさんの旗振りのアナロジーなのか?バレたらおしまい的な。
・一人では言葉を出せない子供、なぜ姿を出さないのか?
■■■TAAC「狂人なおもて往生をとぐ」
・賑やかな別役実の世界観って感じ。舞台で観る時と映像で観る時との感じ方に一番差が出るタイプの芝居な気がするので、動画を主な判断基準にせざるを得ない本賞の審査では不利だったかも。
・傾いた舞台セットが歪んだ世界の表現に一役買っていた。
・母役の「嫌なんですよ、家具が傾いてるの」ってセリフ、それ家具そのものについて述べてるのではないのかなと思った。
・役者間の掛け合いは日常的で、時にとげとげしく、白々しく、良く稽古されているなと思った。
・それにしても、精神を病んだ青年、ウザイなぁ。あんなの家族にいたら、たまらないよ。
・ごっこ遊びを通じて、辛うじて成り立っている家族関係が外から来た婚約者にかき回されて、最後は崩壊するという大筋は分かった。これって、きっと社会の何かを象徴していたり、あるいは批評している気がするのだろうけれど、そこがイマイチ分からなかった。この歪んだ世界観をそのまま受け止める、ってのが個人的な正解かも。
・古い戯曲らしいが、現代の日本社会にも通底する課題を扱うように、翻案しても良かったかも。
■■■@emotion「NEVER EVER NEVER」
・ダンスにアクション、豪華な衣装、楽しい舞台。
・ススム君やピーターや子供達よりも、悪役にこそ人間味が感じられて、ついつい悪役を応援したくなってしまう。
・特に黒ひげ船長の存在感が凄い。うっかり服従したくなってしまう(笑)。彼の「経験の無い軽薄な言葉など、所詮ゴッコに過ぎないのだよ」という言葉には痺れた。機会があれば、いつか使ってみたい言葉だけど、まあそれって老害そのものだよなぁ。
■■■ENG「gagap」
・鬼滅の刃的な世界観。色々な怪人が出てきて楽しい。
・殺陣がメインコンテンツ。お話しは、その理由づけとか世界観を成立させるためにある感じ。そういう舞台も面白いけれど、このスタイルで上演時間が約2時間半というのは長すぎかも。上質な集中力って、1時間半くらいしか続かないと思う。
・俳優さんの身体能力がことごとく高い。特に模造刀を思い切り振り回していた軍人役の役者さん、あれ相当稽古したのだろうなぁ。
・ヒトトセさん、何で刺されたの?
・人生後半戦の観劇者の余計なお節介。高いところから何度も飛び降りているけれど、あれ膝に悪い。膝の軟骨は、割と消耗品って感じだから大切にして欲しい。
■■■mediterranean lily and fever「南阿佐ヶ谷姉妹物語feat.まむおじ」
・いまいち話に一本筋が通っていない(たぶん)のに舞台を成立させる力業。
・押しの役者さんの姿を探しながら、明るい気分になれれば良し。難しいこと考えず、お祭りに参加してるつもりで観劇するのが正解かな。
・舞台作る方も分かっていて、役者さんごとにソロ演奏的なシーンを作っているのが面白い。
■■■排気口「時に想像しあった人たち」
動画無し。