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研究室妖怪図鑑No.1~3

研究室には代々語り継がれてきた教訓があります。起きないように注意すべきことや体験すると喜ばしいことを前もって伝えておくことで、より良い研究室生活を過ごせるようにするためです。

そして、教訓というものはしばしば、何かを引き起こす【妖怪】の存在を仮定して、「こういう妖怪がいるんだよ。だから気を付けるんだよ。」という印象に残りやすい形で伝え残されてきました。そこで、研究室には妖怪が棲んでいるという想定で教訓を捉え直すと伝わりやすいのではないかと考え、【いらすとやさん】というありがたいチート技を利用して妖怪の紹介資料を作り、#研究室妖怪図鑑 というハッシュタグをつけて著者のTwitterアカウントで公開してきました。

この記事では、妖怪No.1~3までの【らぼ童】【砂足瞑白山羊】【セレンディピティ】の資料をどのような考えで作ったのかを解説しようと思います。

No.1 らぼ童(らぼわらし)

最初に考えたのは【提出直前の論文原稿データを壊して開けなくする】という妖怪です。PCで扱うデータ(WordやPowerpoint、TexやIllustratorのファイルなど)は壊れたりしないだろうと思うかもしれませんが、ある日突然、消したつもりもないデータが消えてしまったり、ファイルはあるのに開けなくなったりすることは現実に起こります

実際、著者が学生の頃に、博士論文提出間近に論文データが消えて、1から書き直す羽目に陥ってしまった先輩をみています…。

データ保存のための記憶装置(HDDやSSD)の技術の進歩のおかげでデータは壊れにくくなってきてはいますが、初期不良や経年劣化によって無視できない確率でデータは壊れてしまうのです。数か月かけて書き溜めてきた何十,何百ページもの論文原稿のファイルが提出締切直前に開けなくなって、印刷はおろか提出もできなくなるという事態は避けたいですよね。ですので、この怖さを知ったうえで、データ更新の度、あるいは一定期間おきに最新のデータのコピーをどこか別の場所に移しておくという、いわゆる『バックアップ』をとる習慣を身に着けて欲しいと思っています。

そんなわけで、研究室には【提出直前の論文原稿データを壊して開けなくする妖怪】がいるという話にしました。データが壊れるのは妖怪にいたずらされたためだ、という想定で、いたずら好きの座敷童をモチーフにして、座敷ではなく、ラボに棲みつく座敷童ということで、名前は【らぼ童】としました。

座敷童は、いたずらをするものの、悪い妖怪ではなく、むしろ棲みついたところに幸福をもたらす存在として捉えられているようです。ですので、『らぼ童がデータを壊すのは、幸福をもたらそうとした結果かもしれない』と考えました。データが壊れて慌てるのは、とくに卒論・修論研究の締め切りも迫り、かなり忙しくなって疲れた顔をしているときです。というわけで、『らぼ童は、研究のために身体を酷使している状態を不幸だと捉え、どうにか休んでもらいたいという親切心で論文データという悪いやつを壊すのだ』という設定にしています。

妖怪の絵の元ネタは、いらすとやさんの【座敷童子】です。この元ネタでは右手には手毬を持っているものの、左手には何も持っていませんでしたので、HDDの磁気データを磁気的に破壊できる強力なネオジム磁石を持たせてみました。

No.2 砂足瞑白山羊(さあべいしろやぎ)

2つめに考えたのは【論文を書き終わった頃になるまで重要な先行研究を見つけにくくする】妖怪です。論文をほぼ書き終えたつもりでいたとしても、重要な先行研究が見つかれば無視するわけにはいきません。その先行研究との違いを明確にしたうえで、それを論文のどこでどのように述べるかを検討して書き加えることになります。

しかし、この追記によって、論文の他の部分の主張に矛盾や齟齬が生じる可能性がありますから、論文全体の論理に綻びがでていないかを慎重に確認するという作業が発生します。これは大変ですので、「後で困らないように、論文を書き進めるなるべく早めの段階までに、先行研究の調査と整理はしっかりやっておきましょうね」という教訓を伝えようと考えたのがこの妖怪です。

元ネタの絵は、いらすとやさんの【白沢 はくたく】という、白い牛の体に9つの目を持つ中国の妖怪のものです。この白沢は、『人間の言葉を解し万物の知識に精通する』とされているようですので、人の言葉で知識が記載された論文にまつわる妖怪としてちょうどいいなと感じて採用しました。知識が好きなので、研究者よりも先に美味しそうな(価値のある)論文を見つけてしまうという設定です。

では、なぜ白沢に見つかった先行論文が見つかりにくくなるのか。無理やりですが、白沢が白山羊にも見えましたので、「これは大事な紙だと分かっていても食べてしまう白山羊なのだ」と思い込むことにしました。童謡で手紙を食べてしまう白山羊です。

裏設定として、【大事な先行論文を先回りで食べてしまった白山羊が困って、論文を修復して欲しい旨を黒山羊に依頼する手紙を送ったものの、黒山羊はその手紙を食べてしまい、さらにその旨を説明した黒山羊の手紙も白山羊は食べてしまったので、先行論文は長時間見つからないままになってしまっている】ということを考えましたが、絵での表現は断念しました。

白山羊という設定になったので、鳴き声の「メェ~メェ~」は、論文調査のことを意味するサーベイを少し変えた「サ~ベェ~」にしています。また、名前も、「サーベイしましょうね」という意味で「サーベイしろ山羊」としました。

ここまで決まりましたが、白沢は中国に伝わる珍獣だそうですので、「サーベイ白山羊」の「サーベイ」がカタカナのままなのが気になりました。ということで当て字を考えて、「サー」は「砂足」とし、白沢の足先に砂山を付け足しました。砂の山は、『知識の積み重ねは、体の支えにも推進力にもなるものの、もろくも崩れ、失われやすい』ということも暗示しています。

悩んだのは「ベイ」の当て字です。色々検討して、「はっきり見えない・目を閉じる」などの意味を持つ「瞑」にしました。研究者が論文を探す目を閉じさせて、大事な論文をはっきりは見えなくするという意味を持たせられるためです。

No.3 セレンディピティ

3番目に考えたのは【しっかり頑張っている研究者のところに、発見という幸運をもたらしてくれる】妖怪です。

同じ実験結果が目の前に現れたとき、常々明確な問題意識を持って解決の糸口を探している研究者であればそれが大事な発見であることを瞬時に見抜けるものの、そうでない研究者にはその価値が見えないということはよく言われます。そこで、「大事な発見はいたるところに隠れているので、注意深くありましょうね」という教訓を伝える妖怪として考えたのがこの妖怪(妖精)です。

セレンディピティという言葉はすでに存在しており、【素敵な偶然に出会ったり、予想外のものを発見すること】という意味で使われているようです。科学の場面でも、『失敗にめげずに注意深く取り組みを続ければ、予想外の大発見に結びつく偶然が巡ってくる』という教訓を伝えるために使われている言葉です。

この妖怪については、姿よりも先に、セレンディピティという名前が先に決まりました。そして「なんだか妖精の名前みたいだな」と感じたので、妖精の姿にしようと決めました。いらすとやさんのイラスト検索で『妖精』と調べたところ、クリスマスプレゼントを運ぶエルフのイラストが目に留まり、「大事な発見というのは、妖精が運んでくるプレゼントなのだ」という設定が頭に浮かびました。

この妖精が簡単にプレゼントを運んできてくれるのであれば研究者の出番はありませんから、『このプレゼントは世界中に隠されていて、研究者が一所懸命行っているのは、このプレゼント探しなのだ』という設定としました。大事な贈り物を見つけてくれるかどうかを期待しながら隠して回っている妖精なので、「わくわく」「どきどき」を妖精の周りに書き込みました。

研究室妖怪図鑑No. 4~6はこちらです。

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