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新規事業創出制度における「インセンティブ」のあるべき姿

自己紹介

はじめまして、株式会社アルファドライブにて執行役員を務めている、古川央士です。初めてのNOTEなので、簡単に自己紹介させてください。

私は、学生時代に友人4人と学生起業し、事業自体はそこそこ軌道にのっていたものの、チームビルディングや経営方針の違い(いわゆる音楽性の違い)で解散し、経営やマネジメントという概念すら良くわかっていなかった反省から、そのあたりを良く学べそうなリクルートに新卒入社しました。

ちなみに、学生時代に一緒に起業して最後まで仲の良かった友人の正田君は地元札幌の小学校からの幼馴染で、今も引き続きベンチャーにチャレンジしており、株式会社VRizeというVRや3D広告の会社を起ち上げて2019年には1.5億円を調達して頑張っています。

リクルート入社後の数年間はSUUMOのUI/UXチームの立ち上げや、アジャイル開発プロジェクトのリーダー等を経験した後に、ヘッドクォーターの新規事業開発室にて、複数の新規事業プロジェクトを統括していました。当時の室長の麻生さん(アルファドライブの代表取締役)と0→1を担っていた平尾さん(アルファドライブの取締役)とそして1→10を見ていた古川という布陣で一緒に活動していました。

当時リクルートで2年半の期間で約1,500件のあらゆる従業員の新規事業プランに触れ、12件前後の事業案を実際に投資・育成していました。多いときでは私のグループに10件程の新規事業プロジェクトが存在し、預かるメンバーも20名を超えていました。当時の私は入社5年目でGMとなり、事業開発の経験も浅く、かつSUUMOから異動した全く新しいミッションで、外様×役職者という超不利な状況でスキルも伴わず、当時のメンバーの皆さんには迷惑をかけましたが、一方で新規事業開発に携わる事務局の苦悩は人一倍経験し、大企業における新規事業の泥臭い部分をとにかくたくさん見てきました。

過去の自分の様な境遇の事務局。企業内で新規事業創出に関わる方々の力になりたいと思い、私より一足先に外にでて起業していた麻生さんの元にそうそうに合流し、以来あらゆる産業のクライアント様のあらゆる新規事業に伴走してきました。アルファドライブとしてはもっと数は多いですが、私個人としても20社以上のクライアント様に関わり、1,000件以上の各企業様の新規事業プランに触れてきました。

このNOTEではそういった、企業内で新規事業創出に携わる事務局や起案者の方々に向けた私の経験を少しでも伝えていけたらと思っています。かなりニッチなニーズかもしれませんが、スキマ時間でゆるりと更新していけたらと思います。

初回は企業内新規事業創出制度の制度設計でよく議論が泊熱する「インセンティブの設計」について、私の考えを共有させていただきます。

この記事で触れる新規事業創出制度のインセンティブとは、わかりやすい「賞金」といったものから「事業リーダーとして経営できる権利」など幅広く扱っています。

インセンティブを設置する目的は、応募数の最大化

そもそも企業内の新規事業創出制度において、インセンティブを設置する目的は何でしょうか。私は数多くの制度設計に関わる中で、その目的は「応募数を最大化する」ことに尽きるという考えを強固にしています。

他にも、以下のような目的などいくつか思いつきますが

・プロジェクトが走り抜くこと、完走することのモチベーション維持
・審査通過後の事業立ち上げに作用する

前者はいざ走り出してみると「インセンティブを意識するから頑張れている」というケースはあまり見たことがないのと、後者はインセンティブよりも通過後の投資ガイドラインの設計などの方が遥かに重要なので、やはりそもそものきっかけ作りとしての役割が大きいと感じています。

この議論に紐付いて触れなければならないのが「そもそも応募数をたくさん集める必要があるのか?」という論点かと思います。

企業によっては、量より質を求めることもあります。「昨年までやっていたコンテストは数は集まったが、なかなかいい案が出てこなかったので、今年は量は集まらなくて良いから、質を重視したい。」という話をよく耳にします。

ただ、ここには大きな落とし穴があると思っていて、私は「質」を求めるからこそ「量」を求めに言ったほうが良いと思っています。いわゆる量質転化の考え方が、企業内新規事業創出においては重要であると考えます。

理由はシンプルで「質の良い事業案」なんてものは新規事業創出の初期段階では、判断できないからです。これがもし判断出来るのであれば、質の良い案を数を絞って求めに行っても良いでしょう。しかし、その事業案が本当に良い、投資したいと思える、となるまでには少なくとも半年程度の仮説検証/顧客開発を行ってからでないとわかりません。このあたりはまた何処かで触れられればと思いますが、とにかく、エントリーシートや起案書、企画概要だけで良質な新規事業であると見極めることは困難であり、その審査プロセスを前提としないほうが良いです。

では質を求める為にはどうすればよいか。それは「できるだけ多くの事業プラン、社内起業家にチャンスを与えて、実際に走らせてみる。」というのがその答えになります。実際に走り始めれば、その社内起業家がただのアイディアマンで、ピボットを踏まえた柔軟な発想ができない事がわかったり、逆に顧客のところに行くのを厭わず突破力があるか等もわかってきますし、一人でも顧客検証を行えば初期のビジネスプランの課題やニーズが芯を捉えていそうか。というのがわかってきます。

これは、質が良いと思って絞り込んだプランで、前述の懸念が明らかになってしまっては、途端に事業が生まれる確率が低くなってしまいます。なので、少し走らせることをする前に絞り込むのは、結果的に事業を生み出す確率を下げてしまいます。この確率をなるべく上げるために「できるだけ多くの事業プラン」というのが重要となり、結果「量」を求めた方が良いという結論にたどり着いています。

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この話をすると、よく「お金」と「時間」の話題が持ち上がります。そんなにたくさん走らせる予算がない。もっと早く生み出したい。というものです。

ただし、それもやはり認識を改める必要があって、お金でいうと、この「少し走らせる」というのはほとんどお金がかからないケースが多いです。この段階から何かプロダクトを作ったり、大規模なアンケートをとったりする必要はなく、数人顧客開発するだけでも前述の初期の見極めに効く検証結果は得られるものです。これを多くの企業は業務時間外の自己研鑽活動として整理できていますし、予算も、かかってもヒアリングの交通費や、インタビューの少額謝礼程度です。
「時間」の議論については、たしかに一見、選考プロセスが長期化するようにも思えますが、先に上げたように絞り込んで進めても仮説検証/顧客開発のプロセスが省略出来るものでもないですし、少ない件数であればそのプロジェクトにこだわってしまい、なんども手戻りが発生してしまい、結果的に時間がかかってしまいます。その点、最初から複数の事業案を候補に上げれていれば、仮説検証が順調なチームをファネルで残していき、ダメだったチームはまた次の機会にリトライすればよいだけです。

「質」と「量」の話に脱線したように思いますが、この前提を踏まえているからこそ、量を獲得しに行くためのインセンティブ設計が重要であるということがわかるかと思います。

インセンティブのターゲットは誰か

次に、インセンティブのターゲットについてですが、従業員のどんなセグメントに対して設定すべきでしょうか。先に結論を述べると、それは「すべての従業員」に対して設定すべきという、身も蓋もない話になります。

なぜすべての従業員をターゲットにしたほうが良いか、理由は2つあります。

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ひとつは、前述の「応募数を最大化するため」です。「自分は関係ない」という従業員をなるべく減らし、幅広い対象とすることで数の創出につなげたいからです。アルファドライブ代表の麻生さんは「副賞の自転車が欲しいから」といった理由で応募しましたが、その後子会社設立にまで至っています。入り口は何でもよいのです。重要なのは入り口を入ってきたあとに、社内起業家として覚醒できるかどうかです。

もうひとつは「ターゲティングできない」からです。例えば、よくあるのが既存事業で優秀な層を狙うといった発想。数多くの新規事業リーダーが必ずしも既存事業で評価されてきたわけではないですし、いい意味で異端児扱いを受けていた人ほど、突破力がある。なんてケースもあります。他にも部署や、拠点、年次なんかで区切るケースもありますが、自社の何処に社内起業家の原石が眠っているか、事前に判断が付くものではありません。事務局が想像もしていなかった部門、部署、人が見事に事業化を勝ち取っている、というケースを数多く見てきました。

ここで重要なのは「ターゲティングしない」ということではないことをお伝えしておきます。もちろん、セグメントを設定して、その方々が応募してくれる様にありとあらゆる打ちてを行い、そのひとつがインセンティブ設計ですが、お伝えしたいのは「全セグメントにターゲティング」すべきということで「あるセグメントだけ狙って他を外す」ことではない。ということです。

上記の考え方を踏まえれば、自分の事業がやれるということだけでもモチベーションに繋がる人もいれば、賞金が欲しい人もいる、自分の力を試したい、フィードバックがもらいたい、審査を通過して脚光を浴びたい、というひともいる。その全てを救うインセンティブ設計になっていることが望ましいと言えます。

よく「賞金が欲しいなんて人に応募されてもねぇ」という議論も耳にしますし、起案者/応募者の目線でも「そんな生半可な気持ちで出す人を対象とした制度はどうなんだ。」という意見も気持ちはわかりますが、麻生さんの自転車が欲しかった、というエピソードのように、そこで入り口を閉ざしてしまっては子会社が設立されることも、100名を超える規模に成長することも可能性を潰してしまうことになるのです。

具体的に設定されるインセンティブとは

では、具体的にどの様なインセンティブを設定するケースがあるのか。あくまで私の知見を通してご紹介させていただいます。

例として、次のリストをご紹介します。

・ヒト・モノ・カネ(体制、期間、予算)が得られる
・事業リーダーとして推進できる
・既存事業アセットを活用できる
・コーポレート機能を活用出来る
・共に取り組む仲間を見つけられる
・失敗しても評価が下がらない/戻り先がある
・役員等からフィードバックが得られる
・社長にプレゼンができる
・特別研修(選抜研修)に招待
・視察研修(国内、海外など)に招待
・賞金がもらえる
・賞品がもらえる
・会社設立時の株式などを保有できる
・ビジネス界隈の著名人との懇親会招待
・全社会などで表彰、露出される
・社内報に掲出 / インタビュー記事が発行される
・社外リリース等に名前が出る
・役員との懇親会等に招待

数多くありますが、大きく4つに分類されます。

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本質的なインセンティブで、基礎となる要素
・ヒト・モノ・カネ(体制、期間、予算)が得られる
・事業リーダーとして推進できる
・既存事業アセットを活用できる
・コーポレート機能を活用出来る
・共に取り組む仲間を見つけられる
・失敗しても評価が下がらない/戻り先がある

上記の例は、いずれもリスクをとらずに起業にチャレンジでき、事業化時のサポートがあるというのがポイントで、そのチャレンジ権利が約束されているというのがインセンティブとして働きます。これらのインセンティブなしに、この後紹介する他の項目のインセンティブを充実させるのは付け焼き刃に過ぎません。まずは、この本質的なインセンティブ設計を重要視しましょう。外でも起業してしまう様な人材を中で起業してもらうことにつなげる役割を持ち、非常に重要です。逆にこのあたりのインセンティブがないと、ここに刺さるターゲット層は、あえて中で社内起業するメリットはないよね、となってしまいます。

成長欲求/学習欲求に応えるインセンティブ
・役員等からフィードバックが得られる
・社長にプレゼンができる
・審査期間中に、事業開発にまつわる研修が受けられる
・審査通過後に、特別研修(選抜研修)に招待
・審査通過後に、視察研修(国内、海外など)に招待

上記に上げたようなインセンティブは、新規事業創出制度を活用して、もちろん事業創出は目指すものの、そのプロセス自体を学習機会、成長機会として捉えてくれるターゲット層に非常に有効です。文字通り研修に参加することで学習できたり、社内のベテラン、先輩たちから生きたフィードバックが得られることもモチベーションに繋がります。

応募間口を広げるためのインセンティブ
・賞金がもらえる
・賞品がもらえる
・会社設立時の株式などを保有できる
・ビジネス界隈の著名人との懇親会招待

このインセンティブは設置するのを嫌がる企業や、社内の整理が難しいケースも多々ありますが、前段の間口を広げる意味では設定しておきたいインセンティブでもあります。現在はそこまで意識はしていないけど、いざ取り組んでみると開花するいった層も含めてリーチすることが出来ます。ただし、このうち「会社設立時の株式などを保有できる」だけは、非常に設計が難しく慎重に検討しなけらばいけないポイントですので、何処かで触れたいと思いますが、始めは手を出さないほうが安心なインセンティブでもあります。

承認欲求や出世意欲に働くインセンティブ
・全社会などで表彰、露出される
・社内報に掲出 / インタビュー記事が発行される
・社外リリース等に名前が出る
・役員との懇親会等に招待

このインセンティブは、実施がライトな上に一定層に効果が見込めるインセンティブです。既存事業でも熱量を持って取り組んでいる層に対してリーチでき、その熱量を新規事業にも向けてもらえる可能性があります。既存事業を頑張ったほうがキャリアにとってプラスだよね、新規事業なんかに手を出したらどうなるかわからない、と懸念する人たちに対して、たとえ失敗しても社内外で脚光を浴びる機会を作ってあげることが重要です。

まとめ、自社の従業員に良く聞いてみることから

いかがでしたでしょうか。良く企業の新規事業創出制度で論点になり、白熱する内容として、インセンティブ設計の、その目的から具体例まで紹介してきました。

ここまで理想論を展開してきましたが、実際には企業の従業員の特性に応じて設定すべきインセンティブを調整していくというのが重要です。

事務局や人事が「うちの従業員はこうだから…」と決めつけること無く、実際に従業員の方がどう思っているのかを確認しながら設計していく事を強くおすすめします。

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イントラやSlackなどで「新規事業を考えているのだけど、興味ある人いますか?」と投げかけて、興味のある層/興味のない層、それぞれに対して、どうしてそう思っているのかを聞きに行くことで制度について求められていることがわかっています。

私が知っているとある企業では、その事前設計に20名をこえる社内ヒアリング事前に重ねているところもありました。そうして作ったインセンティブは事務局としても納得感が高いですよね。

以上で「企業内新規事業におけるインセンティブのあるべき姿」については紹介を終わりにしたいと思います。他にもこんなインセンティブを設定してうまくいったよ!といった事例があれば是非教えて下さい。新規事業創出制度がうまくいくかどうかは、もちろんインセンティブ設計だけでなく、その他の多くの要素が重要なので、その他の論点についても今後紹介していきたいと思います。

以上、長文お読み頂きありがとうございました!

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