気圧と私
書き手としてクライアントから支払われる原稿料とは関係なく、自由に文章が書きたいとと思いついてしまった。日記、随筆、エッセイ、コラムなんでもあり。ここは雑なことが許容されるスペースであると信じて、以後、つらつらと。
最近、本当に厄介なやつだと眉をしかめる存在がある。SNSでは常連の句となった”低気圧”である。
つい4〜5年前までは生まれてこの方、偏頭痛にも縁がないという何ともありがたい生活を送っていた。周囲では常日頃から癖になっている人や、月経やストレス過多で発症している人も。手で額をおさえて辛そうな表情をしている人を見るたびに、ややジェラシーを感じたこともあった。小中学校の朝礼で、一度も倒れたことのない、健康優良児のないものねだりがここで再燃である。
そんな健康物語の終焉が少しずつ迫ってきた。あれは2019年の秋、突然の眠気から始まった。(え、昨夜はちゃんと寝たんですけど)そう思いながらも、止まらない眠気。日本人らしい生真面目さが飛びてて、これは怠惰なのだろうとまずは自分を戒めることでおさまった。自宅で仕事をしていることをいいことに寝たけど。続いて襲ってきたのは、地面からバキュームクリーナーで、英気をすべて吸い取られるような倦怠感。想像内ではクリーナーを持っているのは、白装束を纏ったイケメンだったことだけが救いである。
おかしい、私の体内で妊娠でもない、地殻変動のような何かが勃発している。そう思って周囲の声に耳を傾ける。こんな状態が続いたら仕事のパフォーマンスに影響が出る。これまで傍観していた偏頭痛女性たちから、聞き込みにあたることにした。そして女性たちは(症状は違えど)それぞれに不調を抱えていることを知る。未病というわけでもない。じゃあ更年期の症状かと言われれば、そうかもしれない。で、その原因は……? というと、皆一様に口を揃えたのが”低気圧”。
「……低気圧?」
いよいよ我が身にも低気圧不調というものがやってきたらしい。さらにその先にあるワードは「新月」「満月」。月の満ち欠けに女性の体は影響も受けると知っているけれど、月といえばスピリチュアルな要素もある。新月には願い事をすると叶う聞きつけ、ボイドタイムを避けて書いたこともある。叶わなかったけれど。つまり幸せの象徴であるはずの月が、低気圧のような不調を与えてくる。そんなダブルバインドの情報を聞いて、頭痛を覚えてしまった頭の中が混乱した。
物は試しにとSNSで「低気圧」と検索をすると、おびただしい数の低気圧不調を抱えた仲間たちが登場。その時期は「#低気圧のせい」というハッシュタグがトレンドを席巻していた。そんなに珍しいことではなかったらしい。健康だっただけに「何かの病気ではないか」と不安を覚えたけれど、私も人並みの人間だったということだ。ただどう付き合っていくのかは、発覚から数年経過した今もわかっていない。
なので予防として、多くの女性がお世話になっている「頭痛ーる」を常にチェック。それらしき症状が出ると「低気圧ですから……」と常套句をSNSでつぶやき、サボる。大丈夫、SNSには仲間がいる。何かといえば「低気圧だからね」と逃げる。最近ではそんなふうに向き合っている。冒頭で”厄介”としておきながら、結局はサボる最適な理由にしている性分とはいかがなものだろうか。これぞザッツ・マイ・ライフ。実は昨日、今日と二日間も自宅から出ないでダラダラしているけれど「気圧がね」と言い訳にして、外出の誘いを断った。ごめんな、低気圧。