「夢のような時代」の不安 「著作権違反です、と言われても…」
連載『コピーライトラウンジ』(第1回。2014年11月)
「パテント」誌(日本弁理士会)から転載(全14回)
ようこそコピーライト・ラウンジへ。
今月から、著作権やコンテンツについて、最新トレンドを意識しながら「ああだこうだ」話したいと思います。著作権の世界は、パテント(特許)の世界の隣組のように言われますが、異なる点も多そうですね。ここはラウンジです。お互いのヒントになるような雑談ができたらいいな、と思っています。よろしくお願いします。
本日は、スマホ(スマートフォン)時代の著作権について考えてみましょう。
◆アポロ宇宙船とスマホ
スマホは素晴らしい。デジカメやゲーム機になり、ニュース端末になります。メール機能は当たり前。運動消費量や体脂肪の変化まで分かるのですから驚きです。私はよく、iPhoneのフェースタイムという「テレビ電話」を使います。海外にいる家族や友人と話す時に最適です。
スマホは、その性能において、人類を月面着陸させたアポロ宇宙船で用いた大きなコンピューターを上回るのだから、「夢のような」は決して大げさな表現ではないでしょう。
しかし、「夢のような時代」に気になることがあります。それは著作権です。フェースブックやツイッターや個人のブログを見ていると、他人のコンテンツを無断で使用する著作権侵害が目立ちます。
また、2014年だけ見ても、著作権との関わりで音楽の「ゴーストライター問題」やSTAP細胞を巡る「論文のねつ造問題」などが国民的な話題になりました。
夏のある日、地下鉄で女子高生二人が、NHK朝ドラの中で出てきた「赤毛のアン」について、「あのころの翻訳権ってどうなっていたのかな」と著作権について話し合っているのを耳にしたことがあります。
◆「歌ってみた」「踊ってみた」
日常生活でも、著作権や関連の権利に関する疑問を耳にする機会が増えました。
「図書館で借りた音楽CDをスマホにコピーした。問題かな」
「動画サイトで違法コンテンツを見たが、罪になるのか」
「スマホでDVDから落とした映画観ている人いるけどいいのかな」
著作権やその周辺の問題は、誰にとっても他人事でなくなったようです。
著作権に関して混乱が生まれ、不安が広がるのは、複製技術の圧倒的な進歩と関係があります。無理もありません。これまでプロの人たちが独占していた複製技術が、40年ほどの間にアマチュアの手に届くようになったのですから。
複製技術の進展は「すごい!」の一語に尽きます。まず、1970年代にラジカセやゼロックス式のコピー機が普及し、私たちは日常生活で「コピーは便利」を知りました。次に、1995年以降にインターネットやデジカメが普及しました。デジタル技術ゆえに元のコンテンツから「劣化しない複製」が可能になったのです。
そして今や、「スマホ現象」がコンテンツ世界にインパクトを与えています。
大雨による土砂災害や御嶽山の噴火報道では、アマチュアがスマホで撮影した映像をテレビ局が使用する時代です。
娯楽の世界でも、小さなスマホを手にした老若男女が、「歌ってみた」「踊ってみた」をYouTubeやニコニコ動画に「発信する時代」になりました。
つい最近まで映像を広範囲に伝達できるのは、大がかりな装置を持ったテレビ局など「業界のプロ」だけに限られていました。そこへスマホ片手にアマチュアが参入してきたのですから、問題が起きないはずがありません。運転免許を取ったばかりの人が時速200キロで走るF1カーを運転するようなものです。
◆特許権と著作権
インターネットやスマホが日常のすみずみに入ってきたことにより、どんな人も「表現者」であり、「情報発信「者」の地位につきました。しかし、誰もがネット上でコンテンツを流通させる「一億総クリエーター」時代とは、著作権について言えば、「一億総犯罪者」の時代を意味するのかもしれません。道路交通法にもかかわらず、赤信号で道路を渡ることと似ています。
「特許の世界」の住人は、今も昔もプロです。しかし、著作権の世界では、アマチュアが一気にプロの世界に「乱入」してきた感があります。ここに「著作権ワールド」の難しさがあります。
しかも「夢のような時代」の割には、著作権ルールは分かりくい。アマチュアはもちろん、プロが法律の条文を読んでも簡単に理解できない。そんな状態だから、混乱やトラブルが日々、起きていると言ってよいでしょう。誰でも不安になってしまいます。
「それ、著作権法違反です」と言われても、ピンとこない場合も多い。著作権の世界って複雑で奥深そうです。
(了)