お客様は人間です
平日はなかなか来られないのですが、私が働いているお店には、色々な人が来ます。
大人しい人、威張っている人、泣きそうな人、嬉しそうな人。
でも、時折人ではない人が来ます。
真っ黒のカオナシみたいな人の形をした何か。
ずるりとお店の中に入ってきて、必要な物を買われていきます。
お会計が終わる時、私は魔法の呪文を唱えます。
「ありがとうございました」
そういうと、何かも「どうも」と返してくれます。
その瞬間、何かは人間の姿になります。そうして、真っ黒かった何かは人の形をして、お店から出て行きます。
オーナーいわく、休日誰とも話をしない、交流を取らないとひとは自分の形を見失って何かになってしまうそうです。そんな時、声を掛けるとひとであった事を思い出して、人の形に戻るそうです。
私もそうやって、オーナーに助けられて、今此処で働いています。
お客様がいつまでも人間でいれますよう。
私は此処で働いています。