『日本奥地紀行』で知る日本
なにげないほんの数行の記述が、該博な知識を持つ読み手にかかるとこんなにも広がりをもち、深くなっていくものか。民俗学者宮本常一の講義をもとにした『イザベラ・バードの「日本奥地紀行」を読む』(平凡社ライブラリー)は、そんな知的興奮に満ちた本です。
それにしてもなぜ外国人の描く日本を読み解くのか? 例えばイザベラ・バードは、日本の各地で蚤などの害虫の大量発生に悩まされていますが、そういう話は日本の紀行文には出てこない、と宮本は言います。日本人には当たり前だったからで、「当たり前でない人から見た文章の中から当時の日本の生活環境がよくわかって興味深い」のだと。
同じ蚤の話では、青森県の「ねぶた」と蚤の関連にも唸っちゃいました。「これは“ねぶたい”ということで津軽では“ねぶた流し”といっています。また秋田の米代川流域から雄物川流域にかけては“ねむり流し”といい、富山県あたりまでこの言葉が見られます。つまり、夏になると蚤に悩まされてみなねむいので、そのねむ気を流してしまおうというのです」。笹の葉に蚤をのせて流す地方まであったらしいですよ。
なにせ日本全国、16万キロにも及んだという、「歩く・見る・聞く」の達人の解説です。うっかりページを開くと時のたつのも忘れ、最後まで読み切ってしまいそうなおもしろさですよ。(2004.02.09)