黄金のカブトムシをさがして
「夏休み」ってゲーム、知ってる? 正確には「夏休み──『黄金のかぶと虫』をさがして…」(株式会社インスパイア、1991年)。四半世紀以上も前に発売された、マッキントッシュ・パソコンで動作するハイパーカード・スタック(ハイパーカードというソフトウエアで作られた書類)だ。今の感覚ではゲームというより絵本に近いのかな。全て白黒二値画像だけれど、泉原あきひとさんのグラフィクスがとてもスマートで、福寿さんの音楽も明瞭にして簡潔、ぴったりハマっていた。
「夏休み」のアイコン──ハイパーカード・スタックはみな、書類が積み重なったようなアイコンになる──をダブルクリックしてゲームを立ち上げると、タイトルページの後に一足のスニーカーが画面に現れる。左足用は横に倒れていて、うん、生活感が滲み出てるね。スポーツショップの陳列棚にあるスニーカーじゃない。玄関に脱ぎっぱなしのスニーカーって感じ。
「夏やすみ」はマウスをクリックして進んで行くゲームだ。スニーカーを見て冒険に出かける感がフツフツと湧いてきたぼくたちの前に、こんどは曰くありげなペンダントが示される。どうやら未完成のペンダント。星型の窪みと、太陽? が嵌りそうな丸い窪みと、三日月型の窪みが見える。ここまでなんの説明もないけれど、ゲームの目的が暗示されてるね。そう、星と太陽と月、この三つの世界を経巡って黄金のかぶと虫の秘密を探るのが、ぼくたちの目的だ。
さあ冒険に出かけよう。昆虫網と虫かごを持ってドアを押し開ければ、もうそこはセミの鳴き声が充ち満ちる森の中だ。出会いは必ずある。それにしてもなんて輝きのある、生気溢れた世界だろう。
結局ぼくたちっていつも何かを探しているんだ。でもちょっと悲しいかな、子どもたちは新しい出会いを求めて未来を旅するのに、還暦をとうに過ぎたぼくのようなオジサンは、過去を遡って旅することになる。そうして今の自分にたどり着くんだ、きっと。