この甘美な世界に安らぎを
甘い。耽美的に過ぎる。しかし……。
書き出しから、いきなりじゃありません?
大崎善生さんの『パイロットフィッシュ』のここかしこでフラッシュのように煌めく美しい言葉。省察。魅力はそれに尽きるのであって、トレンディドラマのような舞台設定やストーリーは、少なくともぼくには無関係だ。
部分が美しい。しかし、作品全体を通底するものも確かにあるので、それは悲しみとか、孤独とか、喪失感とか言う他ないものなんだ。前向きじゃないよね。健康的とは言えませんよ、たぶん。
けれども、たぶん多くの人が「湖底からゆらゆらと浮かび上がってくる」記憶に時に苦しみ、またそういう自分を持て余しつつ虚空をさまようので、「透明感あふれる文体で繊細に綴」られたこの小説、叙事詩にも似た甘美な世界に、わずかな安らぎと安心を得るのかも。
最新作『孤独か、それに等しいもの』も早く読まなくっちゃ。(2004.07.06)