星の王子さま

 キツネはただ者ではないと前々から思っていましたが、彼の叫びがあれほど痛切に響くとは! 翻訳の力ですね。

「お願いだ……おれを飼い慣らしてくれ!」

サン・テグジュペリ著、池澤夏樹訳『星の王子さま』集英社文庫

 飼い慣らすとは、絆を作ること。でもそれは、悲しいことでもある。別れの日。

「ああ! ……きっとおれは泣くよ」
 ……
「じゃあ、きみは損をしたんだ!」
「おれは小麦畑の色の分だけ得をしたよ」とキツネは言った。
なぜって、小麦なんかキツネには無用のものだけれど、「小麦は金色だから、おれは小麦を見るときみを思い出すようになる。小麦畑を渡る風を聞くのが好きになる……」

同前

 訳者の池澤夏樹さんは、『星の王子さま』(集英社文庫)の巻末にこう書いています。

人はまずもって大地を耕すものである。「王子さま」はバラの世話を通じてバラを愛するようになる。すべてはこの働きかけから始まる。この自然への積極的な姿勢をこそキツネは「飼い慣らす」と呼ぶのだ。

同前

 鈍感なぼくにも少し、星の王子さまの秘密が分かりかけてきたようです。(2005.09.04)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?