『倚りかからず』ちくま文庫版

 『倚りかからず』(ちくま文庫)を購入しました。この詩集の初版二刷はすでに持っているし、何度も読んでいるけれども、山根基世さんの解説に惹かれて。山根さんは桜井洋子さんと並んでぼくの好きなNHKアナウンサーですが、少女時代から茨木さんを敬愛してきたとおっしゃいます。

 「誇るのではなく、羞じる人」。このタイトルを見ただけで、山根さんがいかに深く茨木さんを理解しているかが知れます。誰もが茨木さんの詩の特徴と理解する「まっすぐな物言い」「強い言葉」。

  だが一方で、そんな正論を語らずにいられない自分をもてあまし、羞じる気持ちもある。だから韜晦する。……信念を持つ自分を誇るのではなく、羞じるところが茨木さんらしい。

  ユーモア・茶化しもまた彼女の詩を特徴づけるものだが、それはこの韜晦から来るのであるとは、山根さんの鋭い分析。深い省察。そうかぁ。ぼくも茨木さんの詩の持つユーモアの要素については何度か触れたことがあったけれど、その寄って来るところに思いが及んだことはなかった。参りました。

 山根さんの簡にして要を得た解説を読むと、ぼくなどが駄文を草することが無益で恥ずかしいことのように思えてきます。しかし一方、

 山本(安英──引用者注)さんだけでなく大勢の先輩たちから受け取った美しいものを、茨木さんはその詩に託して、後に続く私たちに手渡そうとなさったのだ。

 その志は間違いなく山根さんの世代に引き継がれています。そしてまたぼくが詩人・茨木のり子について語ろうとするのも、理解の深浅・表現の巧拙はともかくとして、その「志」を受けとめ次の世代に手渡そうとする、ささやかな決意に他ならないのです。(2007.05.07)

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