10センチの空
大人になる必要など、少しもなかったのだ。
こんな風に気づかされて、あなたの心は少し、いや大いに、軽くなりはしないだろうか。
卒業、そして就職を控えた川原敏也の不安、「あのごま粒のような光の中に、ひとつでも自分の居場所があるだろうか」は、とてもよくわかる。ぼくだってなかなか割り切れない、大人になれない、彼の仲間だったからね。如才なくは生きられなかったもの。
そんな悩めるヤング・アダルトへの処方箋のひとつは、大人になるのは決して悪いことじゃないんだよ、というアドバイス。計算・打算で生きるのは悪いことじゃないんだと。汚れることにも意味はあるのだと。
ところが浅暮さんは、そんな言い方はしないんだね。自分の可能性を自分で閉ざしてはいけない。10センチ空を飛ぶことを、そしてその仲間を忘れないことが、大切なんだって。
でも「空を飛ぶ」なんてナンセンスな設定じゃない? いえいえ、それはつまり、「小さな奇跡」ってことなんですよ。
たとえ十センチだとしても、空を飛べることが奇跡であるように、未来に向かって現在を変えることこそ、奇跡だったんです。そして理解したんです。僕が生きているのは現在。だから未来に向かっていくしかないと。(2004.01.02)