フクを追って

 本を読んで、その著者を祝福したくなるときがあります。地方出版の場合などは特にそうですね。著者はたいてい、忙しい本業のかたわら何年も地道な調査を重ね、場合によっては金銭的な苦労をも乗り越えて、ようやくの思いで艱難辛苦(オジンくさい言い方!)の成果を世に問うのです。読む前から「すごいなー」と思ってしまいます。

 さて、地方出版というわけではありませんが、吉澤れい子さん(「れい」は月に令)の書かれた『フク・ホロヴァーの生涯を追って』(草思社)は、高校教師であった吉澤さんが十数年の歳月をかけて追い続けた、明治生まれの無名の女性の評伝です。

 1965年。激動の東欧・ボヘミアで寂しく生涯を閉じた一人の日本女性、フク・ホロヴァー。彼女の息づかいを求める吉澤さんの旅は日本、チェコ、アメリカ、カナダ、イギリス、フランス、中国にまでおよび、そこには関係する人々との偶然の出会いもあり、ページを繰るぼくたちを飽きさせません。達意の文章とはいえなくとも(ゴメンナサイ)、小さな発見がパズルのように組み合わされ、フクさんの人となり、その人生が次第に輪郭をもってほの見えてくるものだから、何にも接点のないようなぼくでも、惹き付けられてしまうんですね。

 吉澤さんは、埋もれていた一人の明治の女の生涯を掘り起こしました。けれども、『フク・ホロヴァーの生涯を追って』という労作に接したぼくには、照らし出されたのは吉澤さんの丹念なお仕事であったように思われます。生意気ながら、祝福せずにはおれませんよね。ぼくなんて、薄手な感想文しか書いてないからサ。(2002.08.31)

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