生きることは彷徨うこと

 あの井上ひさしさんもファンなんだという浅暮三文さん。読めばナルホドと納得です。

 デビュー作『ダブ(エ)ストン街道』の奇妙奇天烈さったらない。そもそも書名からして「ダブストン」なんだか「ダブエストン」なんだか不確定。登場人物(?)もヘンな人(?)ばかり。ややまともに思えるのは主人公の考古学者ケンくらいで、あとはポストを探して霧深きダブ(エ)ストンを彷徨する郵便配達のアップルとか、従者を引き連れてこれもまた彷徨える王様ご一行、↑のツバメ、半魚人、サンタクロース等等、みな迷っている。

 このシッチャカメッチャカさは、やっぱり「ひょっこりひょうたん島」の世界を思わせるね。あれは島自体が彷徨っていたけれど、住人もおかしかった。ドン・ガバチョなんて、テレビからはみ出して(!)ひょうたん島にやってきたんだったよね。

 ところでぼくたち読者は、本を読みはじめて三分の一くらいのところで、この『ダブ(エ)ストン街道』が、ただおもしろおかしいだけのファンタジーではないんだということを突然悟ることになる。ケンの道ずれとなったアップルがこんなことを言うんですよ。

楽をしようとしなければ、たとえ迷い続けていてもなんとか生きていけるんだ。(114頁)

浅暮三文『ダブ(エ)ストン街道』

 ね、ね、あやしくも深〜くなってきたでしょう?

 読み進むにつれて、てんでバラバラに見えた様々な登場人物たちが収斂されていき、ダブ(エ)ストン最大のイベント「赤道祭」の下りに至ってぼくたちは一気にダブ(エ)ストンの謎を理解する。そうだ、ダブ(エ)ストンはぼくたちの人生そのものなんだ。そして生きるということは、彷徨うことなんだ。

 「おそらく人生の大部分は、このダブ(エ)ストンのように霧に埋もれたままなのだろう」。だからこそ彷徨う。でも、「今いるのがどこかなんて大した問題ではないのかもしれない」。「どこに着くかが問題ではなくて、どこかに向かっているということそのものが大切なのかもしれない」。

 「ダブ(エ)ストン街道」」はね。解説なんか読んでも何にもわかりません。四の五の言わずに彷徨わなくっちゃ。(2004.06.01)

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